日本の第一級の認知言語学者による最上の日英語比較
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ともかくこの本の一番の特徴は、日本の第一級の認知言語学者である西村義樹による分析が読めることだろう。認知文法(構文文法)の視点から英語と日本語を比較しているのだが、そのあまりの手際の良さには舌を巻く。これを読むと、なんで西村義樹はもっと出版されている著作に文章を書いてくれないのかと惜しくてならない。そう思えるぐらい、この著作での分析は素晴らしいものだ。
生成文法といい認知言語学といい、所詮はアメリカ生まれなせいか、日本の学者が書いていてもたいていは英語の分析ばかりになってしまう。たとえ日本語の分析を見かけても、生成文法による分析の場合はあまりうまく当てはまっていない印象が強い。認知言語学の場合でも、よく見かけるのは英語の分析ばかりで、日本語はやっぱりうまく分析できないのかなぁ…、と思ってしまうのは誤りだとこの著作を読むと気づかされる。
英語と日本語における考え方の違いを使役構文(因果によって物事に変化が起こる文)から説明する。英語ではA earthquake killed many people.というように無生物を主語に出来るのに日本語ではこうした言い方は不自然なのだが、「戦争で息子を死なせてしまった」といった言い方はする。こうした典型的な使役構文(プロトタイプ)からの拡張の仕方にその言語なりの考え方(する言語となる言語)が見られるのだ。
認知科学なんて所詮は輸入学問…、ではなかったのだと悟らされる著作。言語学の持つ可能性に目を開かせられるだろう。