残念ですが、花村作品として、すすめられません。
★☆☆☆☆
この作者の作品はほぼ全部読んでいますので、要求水準が高すぎるのかもわかりませんが、本当に残念ながらレベルに達してはいません。時代考証がしっかりしてるのに荒唐無稽な筋立てです。この点についてはエンタメの舞台として許し評価する方もいるかもわかりませんし、私も、昭和残侠伝の花田秀二郎だって、不死身の男で20人切り殺しても逮捕されないのですからそうは思うのですが、それは気持ちがいいからです。こんなカタルシスが得られない結末ではいかがなものでしょうか。どなたかが女性に共感できると書いてましたが、触れた手から電気が走る清純な愛情より強姦されてできた腹の子の父親がいいのですか、それじゃ娯楽小説として無茶苦茶な評価以前の問題です。それに主人公を○○するのは禁じ手です。加えて最後の100ページは枚数合わせの蛇足と私は申し上げざるを得ません。
久々に大満足
★★★★★
「ブルース」、「笑う山崎」で花村萬月の大フアンになった私には、久しぶりに満足のいく作品でした。やはり花村萬月の小説はこうでなくっちゃ。
浪漫と暴力と虚無の一大交響詩!!
★★★★★
終戦直後の、東京。敗戦を終戦と言い換え、事務員募集と称して娼婦を国が集め、
戦災孤児たちはかっぱらい名人になり、進駐軍を受け入れるしかない混沌の世界。
この国は、戦争でいろいろなものを失いすぎた。
生きる気力を失った特攻崩れの城山。
プライドを失った在日の林。
そして、家族を失った美少女・百合子。
やがて、3人は、新しい場所として、それぞれ
極道の世界に歩み出すことになる…
戦後、ほんとうにどこかにいたような3人の生き方を軸に、
人の営みのいとおしさとかなしさを描ききった大作第1部。
ヤミ市やGHQの様子など、わずか60年ほど前の東京が
こんな風だったという描写にも驚きつつ、それでも
したたかに、しなやかに生きていこうとする登場人物たちが
主役の3人以外にもたくさん出てくるのだが、どの存在も
嘘っぽくなくて、息遣いが聞こえてくるようだ。暴力シーンと
性的なシーンが多い男性向けな小説のようだが、ヒロイン・百合子の
したたかさに共感できる女性読者も多いはず。
暴力と官能、ほとばしる浪漫の薫りが充満する熱い1冊。
★★★★★
“昭和のスペクタクル小説”って謳い文句だけど、これって、まるでかっての東映任侠映画に日活ロマンポルノそのままじゃないか(もちろん、極上の)。読了後、そう思った。
主人公は特攻くずれ、品格なき唾棄すべき国家、卑劣で虚勢を張った上官たちを忌み嫌いながら、死に損ねたまま終戦を迎え、虚無感と無為のまま、死に場所を求めて僅かな煙草と金銭で愚連隊組織を皆殺しする事を請負、直刀片手に乗り込む男。片や、留学生として日本に来たものの、インテリの偽善さと傲慢さを疑い、差別への理不尽さ、屈辱感をバネに、任侠精神こそ信じえる唯一無二の世界と確信する美顔の朝鮮人、そして、戦争で何もかも失い路頭に迷う処を任侠やくざに拾われる健気さと清廉さを兼ね備えた美貌の女。
これは、戦後の混乱期、焼け野原となった瓦礫の無法地帯東京を舞台に、絶望と喪失の彼方に根ざす生存への希求と魂の鼓舞に命を燃やす者たちの熱い情念のドラマ。そして、自らのアイデンティティを模索する物語。激情的な彼らの生き様に引きこまれつつ、その痛烈な反国家主義の明確さに、花村萬月の思想を見る。
天皇の人間宣言、公職追放命令、婦人参政権、GHQによる戦後民主主義政策に、ヒロポン、ズルチンを始め、戦後間もない新宿の社会風俗が濃厚に書き込まれている。
戦争で焼き出され何もかも失ってしまった者たちの痛切感、愛する男たちの為に自ら楯になって死んでいくパンパンたちの愛おしさに泣ける。
暴力と官能、ほとばしる浪漫の薫り充満する3部作の序篇。彼らの顛末を見届けるのは2ヵ月後、年末に駆けての楽しみが増えた。