本書は一般に国際関係論におけるリアリズムの始祖に位置づけられているようですが、実際に読んで見るとそうしたラベルがあまりしっくりこないと感じるのはおそらくレヴュアーだけではないと思います。近年カーの再評価が進められている(評伝としてJonathan Haslam, "Vices of Integrity: E.H.Carr 1892-1982"、研究書としてCharles Jones, "E.H.Carr and Interantional Relations: A Duty to Lie"、Michael Cox, "E.H.Carr: A Critical Reappraisal"など)のは、この脱歴史化された書を再び自由な視点からの解釈へと返そうということかと思います。
しかし、そうした研究動向やその評価の如何は別としても、同じくカーの『歴史とは何か』と並んで、本書は、国際政治や歴史に関してどうこうという以上に、社会的な物事一般に関する批判的精神の一つの在り方に触れることのできる名著でしょう。
なお、この新版ではMichael Coxによる序文がつけ加えられていて、それがなかなか長く質的にも良いものですので、既に旧版・翻訳を読まれた方も、この序文のためだけに改めて新版を購入して無駄ということはないかと思います。