ミクロ経済学という考え方を使って欲しいという著者の思いが込められています。
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学説だったら反証可能じゃないといけないけど、この本ではもっと緩やかな思考枠組みを提示して、読者の実際の生活で是非使って欲しいとのこと。最適化、リスクと不確実性、集約、理性と情動というトピックを扱っている。
1章ではできることとしたいことの峻別が重要であると語る。混同している例;「取れない葡萄はどうせ酸っぱい」・「私を受け入れるようなクラブには入りたくない」・「愉快なものをもたらすものは、きっと真に違いない」
2章では効用最大化について。完備性と推移性が満たされていればあたかも効用関数を最大化しているかのように概ね叙述できる。経済学における命題は、規範的・著述的・論理実証主義的(理論的概念の意味は、現実に観察できるもので与えられるべきという考え方)な解釈が可能であることを強調している。
3章では制約条件付き最適化について。問題を考えるときには、何が目的で、自分には何ができて、制約は何なのかを分けねばならない。
4章では期待効用について。理論的概念を唯一定義したいときに公理化は便利とのこと。
5章では確率と統計。頻度・主観(期待効用で使われる)による確率の解釈を紹介したのち、因果と関係の違いを強調している。
6章では選好の総計について。コンドルセパラドクス、不可能性定理を説明してからパレート最適性と経済学における効率性の解釈を丁寧に行っている。
7章ではゲーム理論。囚人のジレンマ、繰り返し、均衡、均衡選択、共有知識と信用できる脅迫について扱っている。性善説に基づいた制度の構築はキケン。個人が最適なものを追求していったら全体にとって最適なものが得られなくなる場合がある。定言命法の出番だ!
8章では市場理論。第一定理の解説から入り、不完全情報(逆選択、モラルハザード)の問題点を示したり、パレート最適性という概念の限界について触れたり。
9章は感情の進化的説明。生存しやすくなるように感情が発達したかもとの見方。
10章では幸福について。効用についての数々の命題は、果たして幸福を増やすことに繋がるのかーーそして政策として従うべきなのだろうか。
幾つかの章は経済学嫌いな人vs好きな人という対話形式から始まっている。使える思考枠組みを増やしたい人にお勧め。高校生でもわかる書き方だけれど、その平易さは陳腐さに繋がらない。