図書館の夜 と訳したい
★★★★★
邦訳の見事さに圧倒された原著を入手。本書のタイトルを訳者は「夜の図書館」と訳しているが、本文を読むと図書館にも昼と夜があるという二分法で方法的に分けられているから、語の順に図書館の夜と訳すほうが自然な訳だと思う。各章は、Library as xxx というスタイルで統一されている。版が比較的大きいので、図版は原著が見やすい。
さて内容は、スペイン語作家の泰斗ボルヘスさまの高弟である著者が綴った書物論、書斎論、図書館論の集大成。古代アレキサンドリア図書館(現在はユネスコとエジプト政府の肝いりで20世紀版が再建されている)の歴史を振り返りながら、人類の記憶装置としての図書館の機能を自由に考察している。その目線が、師匠ボルヘスの図書館論を超えていて、感興を誘う。ボルヘスの、スペイン・ラテン文学の独自性をアルゼンチン、カナダ、フランスとアメリカ等と住まいを変えながら子育てをした経験からか、世界文学的、今風に言えばグローバルな観点をも含みこんでいる。個人の図書館をどう維持するかを、物理空間としての書斎・図書館論と文芸想像上のそれとを併置しながら分析して、読者を独特の世界に誘いながら、著名な文学者の図書館・書物論を引用して楽しませ、出色。これだけ多言語で読書を楽しむ著者の学識も素晴らしいが、その余滴として執筆された本書が描き出す図書館の歴史も利用者にして作家の目線の鋭さに教えられることが多い。デジタル図書館時代に相応しい人類の記憶装置検討の一冊としては限りない問題点を提起していて刺激的。愛書家の方、是非ご一読を。楽しみながら、今世紀の読書生活を著者とともに創造しましょう。