コーチングの第一人者ジム・キャンプによる『Start with No』は、他人と反対の行動をとる交渉テクニックを紹介した1冊。現在の主流である「ウィン・ウィン戦略」にあえて背を向けたこのテクニックとは、いったいどういうものなのか。

   大前提は「ノーと言う権利を忘れない」「いかなる合意も拒否する」の2つだ。これさえ身につければ、時と場所を選ばず、しかもどんなたぐいのビジネス交渉も有利に進めることができる。キャンプはこの斬新な交渉テクニックを推奨することで、従来の感情をベースにした「歩み寄り」を断固拒絶している。（「歩み寄りなど敗北主義者の理念にすぎない。そんな心づもりでいたら、交渉相手と最初の握手を交わす時点で、もう負けは決まったようなものだ」）

   さらに彼は、合意を優先するあまりに直感を軽視した行動が多すぎると指摘。最近の風潮に苦言を呈したうえでこう語りかける。「私のシステムを実戦すれば、交渉時に調整可能事項を意のままにできる。一度そのテクニックを身につけ、洗練された拒絶の言葉をさらりと言えるようになれば、成功は間違いなくあなたのもとに転がり込んでくるだろう」

   前述の2大前提にもとづく基本姿勢の重要性を強調しつつ、キャンプは段階別行動も詳説。今なすべきことの特定から、交渉相手の理解、財政面およびメンタル面での相手の評価、検討課題リストの準備、そして交渉の進展の度合いの監視に至るまでを、具体的に解説する。さらにその行動別に必要なスキル（たとえばこちらが有利になる情報を相手から引き出す質問の組み立て方など）も完全に網羅、読者の心をそらさない。きわめて型破りなメソッドではあるが、本当にこのテクニックを身につければ、交渉の幅も広がり、勝利を手にすることができるだろう。（Howard Rothman, Amazon.com）