教師にして殺し屋、教え子にして殺し屋
★★★★★
『JESUS 砂塵航路』第二巻です。サブタイトルは『灰となりても』。
過去の戦いで教師の職に触れて以降、それこそが自分の求めていたものだと知り、教壇に立つ殺し屋・ジーザス。
カダス共和国で教え子たちをさらわれ、彼らを取り戻すために戦い続けるジーザスは、「クイーン」綾木日奈とともに地下カジノに潜入。かつての「24」三幹部の一人・ナイトとのポーカー勝負の際に姿を現した銀髪の美しい少女は、名を訊かれて静かに名乗る。「アッシュ。『灰』だ」
ジーザスのかつての宿敵にして最高の戦友、御堂真奈美との関わりを示唆する彼女は、教師・藤沢真吾の名でジーザスが潜入する高校に、教え子として転入する。
その存在さえ「24」のクイーンの偽装と言われたキングが実在し、彼の遺産こそが、この戦いの中心であるという事実。次々と明らかになる事実の中でも、ジーザスの意志と格好良さは微塵も揺るぎません。
ジーザスが学んだのは「殺すことで世界は変わらない。だが、別のものなら世界を変えられる」という真理。
ジーザスが教えるのは「何が正しいか、何が間違っているかを自分で考える力。自分の生き方を自分で決める力」という真実。
孤高だった日奈もアッシュも、ジーザスの生き方に心を揺らす。深く考えさせられながらも、漫画としての面白さを忘れない、至高のハードボイルドコミックです!
他の作品との絡み合いが楽しみ
★★★★☆
前作での登場人物が更に出てきます(ネタバレは避けたいので"24"関連の人物とだけ言っておきます)。
また、1巻の最後に登場してきた殺し屋少女アッシュは、ジーザスの高校に編入してきます。そしてジーザスが教師の藤沢真悟として高校に潜入た時と同じ反応を。「普通の人間に当たり前のことがやれなくなる歪んだ存在・・・! それが”おれたち”なのさ・・・!」
カダスで教師をしていた頃のジーザスの様子や、御堂真奈美とアッシュとの関連も明らかにされて、物語に更に深みを加えています。
3ヵ月連続刊行というので全3巻になるのかと思っていましたが、そこで終わりということではないようです。次巻の3巻からは、『死がふたりを分かつまで』とのクロスオーバー企画が始まるそうです(この2巻の最後にも少しその関係の話が載っています)。どちらもハードボイルドという点では共通ですね。この企画には『イージス』も絡めて重層的に話が進んでいくようで、自分はこうゆう話の進め方は嫌いじゃないので楽しみにしています。
戦場の流儀
★★★★★
三つ子の魂百までというけれど、権威によって幼少期に与えられた概念は、後々まで人の思考を縛る。権威の形は人それぞれで、親、教師、先輩、宗教、死にまつわるイベントなどあるけれど、この権威によって常識として刷り込まれたものが、自分の判断の物差しになるわけだ。
この物差しは、人が内的に成長し自分の世界が広がっていく過程で更新されていくのが望ましいのだが、様々な事情でそれが出来ないケースも存在する。かつてジーザスが紛争地帯で出会った人間たちもその様なケースに該当し、自分たちの思想に従うように子供たちを教育して、権力者に従う人間兵器を作り出していた。そんな人々に自分で考え自分で判断する力をつける、という信念がジーザスの教育の根底にはある。
御堂真奈美の名を出した少女暗殺者アッシュや、綾木日奈に対するジーザスの接し方は、表面的にはやさしいものではない。彼は教えないし、導かない。ただ現実を示し、判断するための情報を与えるだけだ。しかし、間違った方に進んで大けがをしそうになれば、助ける。彼の教育は常に実践的なのだ。
こちらでも「死がふたりを分かつまで」とのリンクが明らかにされた。次巻は彼らにも活躍のチャンスがあるらしいです。