法哲学全体を広く浅く解説。
★★★★☆
Oxford出版から刊行されているVery Short Introductionシリーズは、歴史、哲学、宗教、科学、人文の各分野について英米の学者が一般向けに解説するもので、本書はその最新ラインナップのうちの1冊。同シリーズについては、岩波書店からも「1冊で分かる」シリーズという名前で邦訳が順次刊行されているが、本書の邦訳は未刊である。
本書は、法哲学の主要論点について広く浅く解説したもの。第1章から第3章までが「法とは何か」という、いわばハードコアの法哲学で、自然法、法実証主義などの各立場が紹介される。第4章が権利論と正義論、第5章以下がマルクス主義法学、フェミニズム法学、ポストモダン法学などの各立場の概説である。
全体に、論点間の論理的関係を解説することよりも、各論者の立場を簡潔に紹介することに力点が置かれている。その結果、紹介される論者は幅広く、HLAハート、ドゥオーキン、ロールズ、ポズナーといった現代の英米系の論者だけでなく、ケルゼン、ハバーマスといったドイツ系の論者や、ラカンやデリダといったフランス系の論者も紹介されている。反面、概説書としての体系性はあまり感じられない。なお、著者は自分の見解は極力押さえ、各主張の解説に徹している。
日本語の文献で法哲学全体をここまで簡潔に解説した本はないと思うので、分野全体をとりあえず概観してみたいという人には最適だろう。英語はやや語彙が難しいが、読みにくいという程ではない。大きさは日本の新書とちょうど同じくらいなので、ポケットに入れて持ち運べる。値段も洋書にしては手ごろ。Very Short Introductionシリーズに共通することだが、装丁が美しい。