好企画が生んだ好著
★★★★★
カリスマ精神科医と言われる神田橋條治氏を囲んでの座談会ものは、話題の対象は異なるものの、本書の出版される僅か2ヶ月足らず前にも別の出版社から出されています。
そちらと比較すると本書の良さが際立って見えます。
企画者・編集者の構想に神田橋氏の興味関心の持ち方が噛み合っている所為か、座談会の展開が非常にスムーズで、しかも神田橋先生もその流れに沿って座談会を楽しんでいるように感じられるのです。
もちろん、神田橋先生のファンの方であれば先生の独演会(?)を期待するでしょうし、座談会の司会進行役がやや出しゃばり過ぎの感が否めないというのも頷けます。
とは言え、神田橋先生の治療実践の詳細については活字では掬いきれない面が大きいと察しますし、治療方針・目標・到達点と結びつかない現在の診断方法への疑問といった今日の精神科医療の根幹に関わる的確な指摘から、患者さんの症状・苦しみを少しでも軽減できるようできる限りの手を尽くそうとする神田橋先生の治療者魂、そこから出てきたアイデアの紹介まで、評者には非常に満足のできる内容でした。
他の座談会参加者の発言の中からも、僅かでも使えそうなところを探して拾い出そうという姿勢を欠かせない、神田橋先生の意識の高さにも感銘を受けました。
雑音が入るといい音楽が楽しめない
★★★☆☆
神田橋先生の言われることは,いちいち深く頷ける。身体を重視している点や,今の子ども達に発達障害が親世代より重く出ているのは,子ども時代に脳を発達させる「役に立たないこと」をしてきていないからという視点。つまり,将来的に役に立つということを狙って親がさせることではなく,子ども達の中から出てくる遊び。共感できることがたくさんあり,感動した。先生のような立場の方が,民間療法に積極的であり,エビデンスよりも,目の前の患者をいかに楽にさせるかを重視してらっしゃることは,今の医療界では,悲しいけれど奇跡のような気さえした。
ただ,残念なのは,浅見さんという司会の方の私見が多く,その方向に引っ張られて,議論が深まらないばかりではなく,その偏見を取りつくろわなければならないような話の展開になっている箇所もあった。公に発信できる立場を利用して,教師やカウンセラーを十把ひとからげに批判していて,偏った見方を流布する恐れがある。カウンセラーは,話を聞いて適当にアドバイスする存在だと思っているならば仕方ないが,身体を重視しながら気づきを促すカウンセリングもある。司会の狭い経験と偏見で雑音が入り,いい音楽が純粋に楽しめない感が残った。
神田橋先生が「日本のフロイト」と呼ばれていた?
★☆☆☆☆
そもそも、発達障害を医療モデルのみで「治る・治らない」議論をやってもムダである。フロイトには申し訳ないが、少なくとも現代の応用行動分析的手法から見れば過去の遺物。弟子から奉られたり、信者から奉られているだけでは、信頼できない。
発達障害に絡んで敢えて「治る」という惹句をタイトルに付けた出版社のあざとさが目立つようで、後味が良くない。
神田橋篠治先生にしかできない魔法ですか
★★☆☆☆
まず、僕がこの本のタイトルを勘違いしていたことを申し上げる。
ネットで見つけて「発達障害は治ります」だと思い込んでしまったのである。
そもそも、発達障害は「なおらない」ので「上手につき合う方向へ持っていく」
と言うのが常識だからである、それが「治る」とあり、しかも使ってある漢字が
治療の治である。「これは買わねば、初耳だ。否、トンデモ本の類いか」
いろいろ逡巡した末、買ったのだが、
タイトルは『発達障害は治りますか?』であった。
内容についてはがっかりする点があった。
一つは、これが対談である点である(ネット購入のため気付かなかった)
神田橋先生、弟子の先生、作業療法士の先生、アスペルガー当事者、司会者による対談である。
きっと、神田橋先生は忙しく本を書いている時間がないからなのだろうが、
神田橋先生が肝心なところをはなしているのに、
他の人が横から口を挟んで強引に自分の話(他の話題)にもっていったりするので、
議論がちっとも深まらない。神田橋先生へのおべんちゃらより議論が聞きたい。
さらに、神田橋先生は「治療なき診断はただのあら探し」と言っておられるので、大いに期待したが、
それは、一次障害のことなのか、二次、三次障害のことなのか、どっちかにはこだわらないのか、はっきりしない。
どうやら、全て治るらしいが『治る』と言う言葉が『生活が改善すること』なのか『根治すること』なのか
使われ方があいまいで分からない。
そしてもっとも知りたい『治す』方法であるが、発達障害の人のどこを治せば治るか神田橋先生には
「気の淀みや邪気が見え」るので、それを「漢方薬」や「整体」で「治す」
のだそうである。この方法を僕は一概に否定はしないが、神田橋先生にしかできない方法ではある。
もし、この本を読んだ、発達障害の人や家族が今か治療を受けている医者にこの話をして、同じ治療
をして欲しいと依頼したら、きょとんとするだろう。
(一笑に付す先生もいるだろうがそういう人は精神科医としては最低なのですぐ替えた方がいい)
注意が必要なのは、発達障害について、まだよく知らないという人はこの本から入ってはいけないということである。
厚生労働書がつくっている冊子等で一般的な基本を押さえてから、この本を読むべきである。
最後に感想ふたつ。
1,作業療法士や、言語療法士は、より現場に近いので、個人の症状に差があることを実感として知っていて、
オーダーメードの治療をしなければならないことを分かっている筈なのに、医者には言いにくいのだろうか。
医師とその他の人にある厳然とした上下関係がこの本のなかでも感じられる。僕はかつて、言語療法士のひとに
「あのセンセイは否定的なことばかり言うので気にしないで」と、慰められたことがある。
2,僕は糖尿病であるが、糖尿病も『一生治らないので付き合ってゆく病気』と言われる。
薬物療法や、インシュリン、運動療法や食餌療法で、QOL(生活の質)は上がり、
常人と同じ暮らしができるが、それを『治った』とは決して言わない。
飼い馴らしているだけだから。
次の言葉が悪魔の囁きでないことを(神などにではなく)祈らずにはいられない。
「発達障害は治るよ」
一人一人違うということはこういうことなのだ
★★★★★
発達障害という認識をくつがえされた。私たちも何らかの発達の問題があるという明解さに納得。
脳の機能の問題であることを理解すると、支援の仕方もまた違うし、希望も見えてくる。
パラダイムがひっくりかえる、刺激的な本。