やさしい空気が感じられる
★★★★☆
4編の話が収録された短編集です。
学校で女子に人気、だが実は年の離れた兄弟の世話に明け暮れる主夫の男子高生『ひだまり台風』
幼馴染と友人、併せて4人で無人島サバイバルする羽目になった女子高生『アカツキの楽園』
母方の遺伝で触れた相手から自分の記憶が消えてしまう体質の男の子『空の少年』
高性能の人型ロボットに人間らしさを教えていく女の子『ピノッキオは夢を見る』
色んな主人公が自分の想いに嘘をつけず頑張る姿は読んでいて応援したくなります。
表題にもなっている『空の少年』は、どんなに大切に想っても触ることができないという設定。忘れられてしまう恐怖から茜を遠ざけたり、体質を気にしていないと強がったりする様子がすごく切なくなります。二人に幸せになってほしいと思う、そんなお話でした。
『金魚奏』のような感動とかインパクトのようなものはありません。ですが紡ぎだされる台詞や、ひまわりや空といった風景を利用した心理描写はさすがだと思います。
穏やかながら深い感動
★★★★☆
『金魚奏』で絶大な支持を得たふじつか雪さんの読切集です。
帯の裏側に「せつない恋だけ、4編あつめました。」とあり、本当にせつない読み切りが4本採録されています。
収められた4本の読み切りはいずれも『金魚奏』読み切り→連載化以降に描かれた物です(連載化が平成18年で連載終了が平成19年ですので表題作の『空の少年』/平成18年は『金魚奏』連載と同時期に描かれた作品という事になります)。
読み切りが連載化された前作を読んでいる方々はどうしても『金魚奏』と比べてしまうと思うのですが、その点だけで評価してしまうと「連載作品」のような読み応えはなく、また「泣いてしまうほど」という「直球」のものはありません。
これは読切集だからという理由よりも、ふじつかさんが「巧くなっている」というのが大きいです。
『金魚奏』連載時よりふじつかさんの漫画家としての力量が上がっていて、読んだその場で「ワッ」と大泣きさせられるような展開ではなく、もっと穏やかながらも深い、宝物のような感動が胸の中に灯り、広がった事に少し経ってから気付く感じです。
一拍おいて感動させる作品を描けるようになってふじつかさんは確実に上達したと思います。