物語は、店で買ったミンスパイを手作りに見せようと、ケイトが頭を悩ませるという象徴的なシーンから始まる。ケイトは分刻み、秒刻みの毎日を送っている。会社はうまくいっているのに、家庭のほうは崩壊しかかっているのだ。物語には、真珠のような輝きを放つ数々の優れたせりふが詰まっている。たとえば、ケイトはつぎのように言っている。睡眠不足について、「コマ切れの夜…。ごそごそとベッドに戻って横になり、睡眠というジグソーパズルをやるものの、ピースは半分なくなっている」。男の赤ちゃんについては、「1歳の男の子をもつ母親は、評論家のいない世界の、映画スターだ」。油断のならないオフィスでの力関係については以下のとおり。
EMF(ケイトの会社)の事務所の女性は、わが子の写真をあまり飾らない。階級が上にいくにしたがって、写真の数は少なくなる。男性が子供の写真をデスクに飾っていたら、人間性ゆたかな人ということになる。なのに、女性が同じことをしたら、結果は逆。これはなぜだろうか? 要するに、男性は子どもといっしょに家にいなくてもいいけれど、女性は家にいるのがあたりまえということなのだ。
この本にはドラマになりうる要素がある。つまり、ケイトはとても魅力的で、読者は、うまくことが収まってほしいと思うのだ。最後に、この本は仕事をもつ母親に関する、単なる気の利いた語録ではないと言っておこう。これは、愛すべきひとりの人物を描いた現実的で中身の濃い小説なのだ。(Clair Dederer, Amazon.com)