素敵です
★★★★★
「色町」といっても、いわゆる官許の「吉原」ではなく、
もっと敷居の低い、庶民の「色町」のはなし。
現代の、大きな声では語られない「性」が、
現代の、夜中でも明るく照らされている「闇」が
江戸時代には、今よりずっとずっと濃密に「在った」んだ、
ということが、アタマではなく、意識の中にはいってくるように
語られています。
「性」は現代より、もっと重く、なのに、明るく、ストレート。
避妊や堕胎の技術レベルが低いのだから、妊娠や出産は
まさに命のやりとり。
だけど、江戸時代の人々は、自分の気持ちに正直で、
「やりたい」から「やる」。重いはずのことが重くならない。
寿命が短いせいなのか、「今」が大事。
「闇」は、夜中でも街灯が一晩中明るいような現代では
考えられないほどの暗さだったのでは。
その闇の中のほのかな灯りに出来る影。
その濃い闇の中には、本当に居たのかもしれない物の怪。
人と、そうでないモノとの境目が在るのか無いのか。
江戸時代の、江戸の人たちの、暗い暗い濃い闇の中の、
物の怪か?人か?が織りなす世界に、
この先どうなるのか、と気になるような巧みなストーリーで
誘われます。
また、江戸時代の風俗に詳しくなくとも、くどくならないほどの説明が入り、
時代小説を読み慣れている人でも「なるほど〜」と思うことがあるのでは。
萬女蔵、という憎めないキャラクターが全編にわたり登場しますが、
そのつかみどころのない男がどういう人間なのか、
いや、人ではないのか?などと思いながら、読み進んでいったら、
終幕での、最後の彼のセリフに、ぐっときました。素敵です。
「怪談」でもありながら、それだけではない「はなし」です。
絡みの描写と表現がキレイ!!!
★★★★★
“色町”と聞くと、ちょっとHでゴージャスで、昔ながらの風習があるイメージが頭の中に浮かびます。
この本に出てくる娼妓は、芯が通っていて綺麗でカッコ良くて。。。
色男の萬女蔵は、美しい娼妓なら幽霊でも抱ける男気があって。。。キャラがとっても可愛いです。
憎めない萬女蔵と、美人な幽霊との絡みの描写がキレイで、頭の中では映像が勝手に浮かびました。
長島さんのお話はやっぱり面白い!!!
この色町で生きる女の人たちは、どんな男かを見抜く目がちゃんとあって(人間ではないからかな?)、惚れ抜く覚悟もあって、ちょっと羨ましい・・・
男に甘い言葉をかけられたら、ついフラっとついていきそうになる女の人(私もだけど)は、この本を読むと少しは凛とした女性になれそうな気がします。
彼女や奥様の関係で悩んでる男の人は、女が男に本気で惚れるとどんなことをするのかを、特に読んで欲しいです。
物語とわかっているけど、美人の幽霊女に愛される、可愛い萬女蔵に会ってみたくなりました。
セックスと恐怖のコンビ、とは言え爽やかな読後感
★★★★★
セックスと心霊の組み合わせが、本書の最大の特徴。
色と恐怖という組み合わせは、古今東西、
エンターテイメントの黄金コンビであって、
小説にもよく使われるテーマだと思うが、
本書はセックス自体をどんとメインテーマにしたてたところが、
他の心霊ものとは大きく異なる点だと思う。
主人公萬豆蔵は、無頼の輩であり、
善人が登場する勧善懲悪の物語でない。
男女の関係の心の綾や、
幽霊の因果の元にある愛憎を上手に描いており、
とても面白い連作集である。
恋愛小説としても読めなくはないところがあって、
読後感が爽やか。
それは萬豆蔵がどこかイノセンスな部分があり、
男を恨む幽霊から愛されてしまうという、
超人的なキャラクターだからであろう。
お勧めです。