異次元童話の終焉,されど落葉は喬木の根に帰して新たな葉を芽吹かせる
★★★★★
“もう既に各務からは記憶が失われていた。
皇子からも記憶は失われてしまった。
そうして暫くすると、あれほど固く抱き合っていた二人の手から、力が失われていった。
宝玉をまき散らしたような星々が近づいてきていた。” (本文より)
累計1,000万部以上を売り上げた藤川桂介氏の代表作であり、
劇場やOVAでアニメ化もされ、音楽CD,カセットブック,画集などのファンアイテムも出した
全48巻,外伝4巻からなる、星暦672〜823年までの152年間の出来事を描いた異次元童話の最終巻。
『満月の夜の恐怖/夢想楽土、万年春/妖仙童子、空を飛ぶ/飛鳥、心の故郷よ/襲撃の逆転/朝廷の危機/
神々立つ/天地鳴動す/それぞれの春/火龍、満月の夜の来る/熱い思いを夜空に』の11章から構成されている。
星暦823年春、皇子たちは長年の夢である流民王国を、大和を遠く離れた奥州は十和田湖湖畔に築く事に成功していた。
その名を夢想楽土と言い、金・銀・瑠璃・水晶で彩られた宮殿、孔雀や鸚鵡、鶴が放され、
瑪瑙・シャコ貝・珊瑚で飾られた庭園を中心に、元優婆塞・優婆夷であった者たちが、地元の民草とともに暮らす楽園であった。
長年の夢が叶い、男女として結ばれた皇子と各務であったが、神や仏の域にまで達した彼らに対し、
神々は地上に留まる事を禁じ天上界へ籍を移すよう警告する。
皇子はそれに反発し天上界へと戦いを挑むが、対する神々は最強の火龍──火之迦具土神を刺客として差し向けるのだった。
第3期 『妖夢篇』 までは最初にノベルス版を出し、何年かおいて文庫版を出すという手法をとっていた本作だが、
内容のマンネリ化と人気低迷のためか第4期 『煉獄篇』 の新書は文庫化されず、本作以下 第5期 『黎明篇』は
全て新書ではなく文庫で出されている。(しかも全10巻の予定だったものが全8巻に削られる始末)。
その最終巻であり、15年間に渡って執筆されてきた物語の結末であり作者の回答である。
地上篇の最終巻 『愛、はてしなき飛翔』 の劣化版焼き直しといえばそれまでだが、あまりにも苛烈で哀切な結末は
やはり長年の読者として言い知りえぬ衝撃を受け、しかしやはりこの終わり方しかないのだという諦念と納得を覚える。
皇子たちが長年に渡って育んできた種が、果たしてこの最終巻でどのような芽を出すのか、
興味のある方は是非とも一読して確かめて欲しい。