マニア好みの渋い作品 大鑑巨砲主義の愚かしさ
★★★★☆
ガ島攻防戦において「大和を突っ込ませていたら」的なIFはこのジャンルが成立した瞬間から何度も描かれてきた。ところが、そこでの大和の役回りは、「敵戦艦を完膚なきまでに打ちのめす」日本軍の最強兵器であって、当時から言われていた「狭い海域に小回りの効かない大和を突っ込ませてもしものことがあったら・・・」は語られることがなかった。
今回はまさに「もしも」が起きてしまったのである。大和は日本軍の足を引っ張るだけしか能が無い。舵に損傷を受けて身動きが取れない点ではビスマルクなみである。友軍の救援があることだけは救いだが。
戦艦が高価なわりに役立たずであることは事実である。陸上基地からは航空攻撃にさらされ、発射速度の速い小艦艇には翻弄される。この愚かしい兵器をめぐって両軍が激突する様は、大戦が始まってからも、日米両軍ともに、大鑑巨砲主義に染まっていたことの証明だろう。
下巻が楽しみな期待作
★★★★☆
個人的には、この横山信義という作家は、仮想戦記において戦略級よりもむしろ戦術級以下の作品が適している作家だと思っているが、本作を読んでその思いを強くした。
ヘンダーソン飛行場砲撃に大和が参加、というシチュエーションは、他の作家も書いているが、そこで大和が史実の比叡のような状況に置かれ、それを打開しようとするというのは横山氏の持ち味──現場の勇戦力闘、苦戦を描くのが上手い──を活かせる展開である。作戦の発端から、山本連合艦隊長官、阿部司令官、高柳艦長を始めとする様々な関係者の思惑が交錯する中、大和は初の艦砲射撃を実戦で行い、予期せぬ乱戦に持ち込まれる。関係者の心理や思惑から、戦闘の描写まで、安定感のある作家の作品なのである程度安心して読める上に、本人が得意とする日本軍苦戦の状況である。
夜間の近接戦闘で舵機故障という、戦艦にとってのアキレス腱の一つを断たれた大和を無事に帰還させようとする日本側と、大和級の存在を知って是が非でも撃沈しようとするハルゼー指揮する米軍のせめぎ合いは始まったばかりであり、大和の命運が気になり同時発売の下巻に手が伸びる。
前作の烈日を読んで良かったと思った人には安心して勧められる一冊である。
マニア好みの渋い作品 大鑑巨砲主義の愚かしさ
★★★★☆
ガ島攻防戦において「大和を突っ込ませていたら」的なIFはこのジャンルが成立した瞬間から何度も描かれてきた。ところが、そこでの大和の役回りは、「敵戦艦を完膚なきまでに打ちのめす」日本軍の最強兵器であって、当時から言われていた「狭い海域に小回りの効かない大和を突っ込ませてもしものことがあったら・・・」は語られることがなかった。
今回はまさに「もしも」が起きてしまったのである。大和は日本軍の足を引っ張るだけしか能が無い。舵に損傷を受けて身動きが取れない点ではビスマルクなみである。友軍の救援があることだけは救いだが。
戦艦が高価なわりに役立たずであることは事実である。陸上基地からは航空攻撃にさらされ、発射速度の速い小艦艇には翻弄される。この愚かしい兵器をめぐって両軍が激突する様は、大戦が始まってからも、日米両軍ともに、大鑑巨砲主義に染まっていたことの証明だろう。
下巻が楽しみな期待作
★★★★☆
個人的には、この横山信義という作家は、仮想戦記において戦略級よりもむしろ戦術級以下の作品が適している作家だと思っているが、本作を読んでその思いを強くした。
ヘンダーソン飛行場砲撃に大和が参加、というシチュエーションは、他の作家も書いているが、そこで大和が史実の比叡のような状況に置かれ、それを打開しようとするというのは横山氏の持ち味──現場の勇戦力闘、苦戦を描くのが上手い──を活かせる展開である。作戦の発端から、山本連合艦隊長官、阿部司令官、高柳艦長を始めとする様々な関係者の思惑が交錯する中、大和は初の艦砲射撃を実戦で行い、予期せぬ乱戦に持ち込まれる。関係者の心理や思惑から、戦闘の描写まで、安定感のある作家の作品なのである程度安心して読める上に、本人が得意とする日本軍苦戦の状況である。
夜間の近接戦闘で舵機故障という、戦艦にとってのアキレス腱の一つを断たれた大和を無事に帰還させようとする日本側と、大和級の存在を知って是が非でも撃沈しようとするハルゼー指揮する米軍のせめぎ合いは始まったばかりであり、大和の命運が気になり同時発売の下巻に手が伸びる。
前作の烈日を読んで良かったと思った人には安心して勧められる一冊である。