切れ味鋭い短編揃い
★★★★★
パトリシア・ハイスミスの小説は、読む者の心を不安と焦燥感とでいっぱいにします。長編もそうなのですが短編でのほうがよりいっそう顕著で、凄みすら感じてしまいます。ミステリというカテゴリに分類されてはいますが、本書に収められた短編11作のうち、犯罪関係や謎解きのものは少なく、犯罪が絡んでくるものにしても、それをメインに据えておらず添え物程度の扱いで、何気なく過ごしている普段の生活で起こる些細な出来事と、そこから思いもかけずに広がっていく不安と恐怖を鮮やかに描き出しています。犯罪も謎解きもない小説をミステリと呼べるのかという人もいるかもしれませんが、読む人をドキドキハラハラソワソワと楽しませるミステリの要素を持っているのは確か。「切れ味の鋭い短編」とよく使われる褒め言葉がピッタリの短編集です。