ユーモアと警鐘と
★★★★☆
佐貫亦男氏は日本航空界の重鎮であり、それ以上にユーモア溢れる名エッセイストであった。飛行機への愛情こもったエッセー(「ヒコーキの心」も是非)には、歴史に残る名機の逸話とともに、開発に携わった堀越二郎(ゼロ戦、雷電)、菊川静男(二式大艇、紫電改)、久保富夫(100式司偵、初代三菱自動車社長)、などのそうそうたる名設計者への個人的な思い出がつづられている。また第二次大戦中のベルリンで最新技術の吸収に奔走していただけに、日独英米伊各国の設計に対する姿勢の違いについてのコメントは興味尽きない。日本人の「基礎的な工作技術」をすっ飛ばして「新しいものを空しい流行で」追う習性を見てきた彼にとって、敗戦の理由は技術格差以前の問題であった。地味な専門誌で連載されていたエッセーでありながら、日本(の為政者)の「技術育成」軽視に対する手厳しい警鐘は生涯の変わらないテーマであった。さて傑作機が生まれる条件とはなんだろうか?「明確な使用目的(矛盾のない設計仕様書)」、「奇をてらわない基本に忠実な設計」、「同時に新機軸/リスクに果敢に挑む執念」、「固定観念に捕らわれない柔軟なアイデア」。そして設計者の、のびのびとした線が感じられるのが名機である。