本書はドスト氏の諸作品に対する評論が章立てで構成されたもの。
タイトルの「神なき救済」というテーマに惹かれて一読したが、本文ではそのテーマが全く掘り下げられないどころか、最後の方でドスト氏の「救済規定」という言葉がちらっと出てくるだけでその概念についても説明されず、結局本書の核となるべきタイトルのテーマについては何も分からずじまいだった。
あと、誤字(誤植?)や言い回しの間違いが各所で見られるのには閉口する。
ドスト氏については世界で数多くの評論が書かれているが、それはこの文豪が小説で取り組んだテーマの普遍性による。一般的に、作家、及び作家の抱えるテーマについてどれだけ肉迫していけるかが評論家の腕のみせどころだが、本著はドスト氏に対する著者の共感はそれ相応に感じられるものの、ドスト氏の断片的紹介に始終してしまっている感が強い。それでもドスト氏について考えるには貴重な一冊であることには間違いない。