ルーイカのデビュー小説は、バイアグラを題材とした典型的なコメディだ。主人公は中年の教授。妻を亡くした老齢の父親が、ブロンドのグラマーな30代女性と再婚すると言い出す。何でも北ロンドンの地元の、ウクライナ社交クラブで知り合ったという。ナジェジュダとヴェラの姉妹にしてみれば、ファムファタールのヴァレンチナの目当てはひとえに西欧の贅沢であり、愛のためであるわけがない。すれた野心家の女にすっかりほれこんだ父は、先のことなど忘れてヴァレンチナがイギリスに落ち着くのを助け、わずかな年金を彼女の車や家財道具に使い、美容整形の費用まで払ってあげる始末だ。社会主義者のナジェジュダと、誇り高き資本主義者のヴェラは、父親をこの愚行から救うべく協力するうちに、互いの間にわだかまっていた長年の問題に直面する。時に凡庸で、同じような笑いの繰り返しも目につくが、ルーイカのコミカルな語りは一貫している。両親の過去についてよく知らなかったナジェジュダは、ヴェラとともに戯画的だと思っていた父親に、見かけ以上のものがあることに気づいていく。「喜劇的な恋沙汰かと思ってたけど、今では悲劇的な様相を増しているわ」ある場面でナジェジュダはそう言う。ヴァレンチナのことを言っているのだが、同時にこの胸を刺すような独特の小説のことを言っているのかもしれない。
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