本書が、ありふれたラブロマンスと一線を画するのは、ポールとの別れを受け入れようと懸命なアリックスの姿を丁寧に描くのと同時に、トップディーラーとしての彼女の仕事もリアルに描きだしている点だ。クライマックスのドル取引のシーンなどは、手に汗握る経済小説としてのおもしろみにあふれている。「仕事」と「恋」の両面の丹念な描写が、アリックスという女性をより現実味のある身近な存在にしていることは間違いない。つっぱって生きてきた彼女が、ようやく自分の本当の気持ちを告白するラストシーンには、多くの人が共感することだろう。
30代の独身イギリス人女性の物語といえば、ベストセラー小説『ブリジット・ジョーンズの日記』が思い浮かぶ。本書では、好きな映画を聞かれたアリックスが「ヒュー・グラントが出ているもの以外」と答えるなど、ブリジットファンには思わずニヤリとさせられる場面がある(映画版『ブリジット・ジョーンズの日記』では、ブリジットが恋焦がれる上司役をヒュー・グラントが演じている)。ブリジットとアリックスの生き方を比べてみるというのもおもしろい。(中島正敏)