日本語でユンガーが読める幸せ
★★★★★
本書はドイツを代表する作家であるエルンスト・ユンガーの前期の代表的政治的エッセイ「忘れえぬ人々/総動員/平和」の邦訳であり、それを「追悼論」という視点からまとめたものである。
ドイツの知的巨人として君臨しているユンガーであるが、その独特な思想と戦争との関わりなどから問題的であるとみなされ、未だに毀誉褒貶の激しい作家である。
ここに訳出された三篇のエッセイには主に戦時中(1928,1930,1945)の彼の思想がまとめられている。内容に関してはぜひご一読をお勧めしたい。彼のその独自の思想の端緒に触れることができるとともに、その変遷も垣間見ることができるだろう。
本書は丁寧な注釈が施され、難解と言われるユンガーの文章を読みやすく訳されており、ユンガー思想に触れる導入の本としても理想的であると思う。(訳者である川合全弘氏の序文、解題も非常に興味深かった。)
ユンガーの没後10年となる2008年であるが、現在でもその膨大な著作に対し、邦訳はあまりにも少ない(と言っても過言ではないだろう)。そんな中今回の邦訳は非常に嬉しかった。訳出の苦労を心から労いたい。今後は日本においてもユンガーの研究も進むと思われるが、一日も早く主要著作の「Der Arbeiter(労働者)」の邦訳が読みたいものである。(他力本願ですいません…)