日本の伝承音楽の原風景、その魂に迫る
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訪れる=音を立てる意から、戸をたたくことの印象が強くなり、訪問の意になる〈折口信夫「国文学の発生」〉このことをふまえたタイトルであろう。しかもその主体が「神霊」の擬人化という、祭祀儀礼音楽への魂入れが凝らされている。更に、著者は日本に留学してきた真摯な中国人学者で、自国漢字文化(象形文字)の関連でも捉えようとする意欲的な著作となっている。
実証的研究ということで、フィールドワークを大切にしている。第1章は「能登の音探索」の旅から始めている。かつて大陸文化の玄関口として栄えてきた「輪島」は、日本の国「倭島」を意味するとも言われる。また、その旅で福井県永平寺前の露天で鈴を求めている。写真で紹介されているので推測すると、巡礼のお遍路が持って振って鳴らす金剛鈴(鉦)に似ている。ここで意表を衝くのは中国古代文字【音】の象形文字を色紙に書いて並べ、写真にしていることである。(35頁)
我々の気づかない観点で宗教的・民俗的な事例を挙げながら、音楽の起源と本意、機能と本質を探っている本書。ただ学問的にのみならず、一般教養として興味本位にも読んで楽しめる本である。古来伝承の太鼓や鉦、音楽文化について興味関心のある方ならば、中国人の眼差しの優しさと鋭さ、感性の豊かさにハッとさせられるに違いない。