本書は、深い学識と公認会計士としての経験に基づいて、粉飾発見のための専門機関の長を務めるシリット博士の著書の邦訳。全300ページ足らずの訳書だが、粉飾決算が起こり得る土壌に警鐘を鳴らし、企業分析を成功裏に終らせるためのヒントに満ちている。
コンテンツは全5部構成、17章立て。なかでも第2部は本書の核とも言えるところで、収益・費用、負債の認識と計上にかかわる「7つのトリック」が記されている。続く第3部ではそれらの発見方法が学べ、さらに第5部では、戦前の経済大恐慌から、「エンロン・ショック」に至るまでの粉飾の歴史とその顛末(てんまつ)について、企業名もつまびらかに興味深い事実を知ることができる。たやすく読み進められる「粉飾決算理解のための決定版」だ。
財務分析に関わる書は世に多いが、レジュメ程度のものを読んだところで財務分析のプロにはなれるわけではない。良き指導者の助けを得て、隠された本質を見抜く力を養うことが必要である。内容の充実度からすれば、本書は単に気楽な読み物と誤解されるべきではない。本格的に財務分析を学ぼうとする人や、この道の研究者までも納得させうる本だ。
問題意識、論点の網羅性、加えてその史料価値のいずれの点からも幅広く読者を獲得するに値する、間違いなく有為の1冊。オリジナル邦書にこのレベルの本が容易には探せないのは、ひょっとして日本の会計や企業ガバナンス環境が発育不全であることの表われか。内容が豊富なだけに、索引がついていればなお良かった。(任 彰)