尖石への誘い
★★★★★
冒頭が中央本線の列車の旅で始まる。著者が自ら撮影した八ヶ岳の山容の写真が旅愁をそそる。秀逸な書き出しだ。考古学に興味がないものでも引き込まれる。「遺跡を学ぶ」とする考古学シリーズの中の一つなのだが、私費を投じた遺跡の発掘・保存・公開に甚大な情熱を注ぎその生涯をささげた民間考古学者、宮坂英弌の伝記の形式を採っている。彼の遺跡発掘への情熱には頭が下がる。尖石遺跡の物語でありながら戦前戦後にかけての日本考古学史にも話が及んでいるのは、さすが「日本考古学史」(東京大学出版会)の著者でもある勅使河原彰氏ならではの筆致である。考古学の本でありながら感動を覚えたのは、著者の文才にも依るところが大だ。尖石縄文考古館と諏訪の遺跡に行ってみたい気にさせてくれる。