最後は精神論?
★★★☆☆
世界史上の出来事について、私にはとても新鮮で、学際的な知見にあふれた内容なので一気に読んでしまった。対話ならではの、語り合ううちに、自分でも気付いていなかった新しいアイディアが見えてくる、という場面に臨場感があって、面白かった。
ただ、最後の方で精神論のようになってしまうのが、残念。結論が出ないこともあるので、こんな終わり方をするなら、読者に考えてみてほしいと投げかけてもよかったのでは。
リテラシーのある人向けの本
★★★☆☆
現生人類の誕生から今日の文明まで、人間と人間社会との周囲に存在した自然環境(その中でも特に「水」と「森」)が、人類の歴史の変化や発展にいかに影響を与え、また人間によって影響を与えられてきたかを、幅広く論じた本。読めば非常に面白い。示唆にも富む。今の社会のあり方について、これまでとは違う視点が与えられるかもしれない。
しかしその本質は、新橋のガード下で歴史好きの中年サラリーマンが集まって、言いたい放題の歴史解釈をして盛り上がっているのと変わらない部分がある。鼎談と言う形式の長所でもあり、短所でもあるが、大胆な仮説が無造作に提示されて、十分な検証もされないままに放置されている部分は多い。毀誉褒貶相半ばするところだろう。
だが物事の本質はしばしば、学会での論文発表などよりも、酔漢の戯言の中にこそ見出せるものでもある。現状では決して歴史の“教科書”として使うことは出来ないが、“教科書”と併読することによって、我々の歴史や文明の本質に対する理解を深めることが可能になるのではないか。2001年の段階で、ここまでの議論が出来ていたということには、歴史的な意味もある。
文明史や環境史に関してある程度のリテラシーを持っていて、自分なりの批判を加えながら読める人にはお勧めしたい本。逆に、ここから勉強を始めようという方には、かなり危なっかしいところがある本である。
人類の歴史
★★★★☆
石弘之・安田喜憲・湯浅赳男という環境史の研究者3人が集まっての対談(正確には鼎談か)。
私は対談本が好きではない。読みにくいし、情報の精度が落ちるためだ。しかし、本書は面白かった。この手の対談本の価値は、1.まだ論文や著書になっていない最新の情報が盛り込める 2.思いつき・アイデアを示す、というところにあるのだろうが、それが充分に発揮されていた。特に、新しいアイデアが豊富に語られている。充分に検証されていなかったり、見通しとして考えているものであったり、対談のなかでふと思いついたものであったり。
それらはかならずしも正しいものばかりではない。研究していくうちに誤りだと分かったり、結局論文や本にはならなかったりということも少なくない。しかし、「大きな話」であり、魅力的なことがあるのだ。読んでいて心躍らされた。
入門書や研究の手掛かりとして良い本と思う。
環境の専門家による壮大だが切実で面白い鼎談
★★★★☆
本書は、20万年前に誕生した現代型新人の飽くなき知恵と欲望が、現代人類の繁栄をもたらすと同時に、地球環境の悪化による危機をももたらしている経緯を、環境学・環境考古学・比較文明史の3人の論客が環境史の視点から論じあって、人類の滅亡回避の可能性を探ろうという、ある種壮大な鼎談書である。各論者の発言には、それぞれの専門分野における膨大な知識と人間や文明に対する哲学的意見が込められていて、とても知的好奇心を満足させてくれる読み物になっている。
本書によれば、古代文明が誕生して文献史料の残っている時代だけでなく、それ以前から現代型新人は地球環境に大きな影響を与えていたようだ。ユーラシア大陸に広がった現代型新人は、先住のネアンデルタール人と違って、自分たちの食糧として必要分以上の動物を殺したらしく、この頃マンモスを始めとして多数の大型哺乳類が絶滅したのは人為的要因が大きいらしい。現生人類の遺伝子には非常に強い欲望の因子が存在するのではないかと問いかけられる。
現代社会は、人間の食欲・性欲・楽をしたい欲求のすべてがいいこととされ、金を儲けてそうした欲望を満喫できる人間こそが偉いという時代になっているが、これらの欲望のコントロールが出来るかどうかによって、近未来の人類社会がソフト・ランディングするのか、破局を迎えるのかが決まるだろうという予測が語られて本書は終わる。ところで鼎談でも触れられていたが、日本には環境問題を最重要課題として掲げる政党が存在しないのは何故だろうか。社民党が改名して「緑の党」として活躍することを期待したいものだ。
これからの文明のあるべき形とは
★★★★☆
日本の将来や子供達の未来を考えていく上で、環境は避けて通ることのできない大切な問題であり、市民一人ひとりが高い意識を持つことが求められています。
他方、環境に関する議論は、「文明は善か悪か」、「貧困撲滅と生態保全はどっちが大事か」、更には「人の労働の価値をどう評価するか」など、大なり小なり論者の世界観や価値観が反映する場合が多いようです。したがって、我々初学者にしてみれば、どんな本を読めばよいのか慎重に考えて選ばないと、とんでもない時間の無駄をする羽目になりかねません。
その点、本書は、環境学の石教授、環境考古学の安田教授、そして比較文明論の湯浅教授という、我が国環境論の大御所三大家が揃い踏みで鼎談を行うという企画です。環境論や環境史の最もメインストリームな問題意識や考え方が、カジュアルな語り口で、見事に集約されています。20万年に亘る人類文明の道のりを、気候変動や自然環境とのインタラクションという視点から総括していくという趣向ですが、その随所で、古来の文明の在り方に対する反省や、農業・牧畜等と自然環境との緊張関係に関する指摘などがなされています。
本書の中では、今後の文明の在り方を考えていく上では、即物的に環境保全の努力だけでは限界があり、文明や幸福の在り方に関する市民レベルの意識変革など、「心の問題」を考えていくべきという主張がなされています。大切なことを教わったように感じました。