「君も仲間に入らない?」という声が聞こえてきそう
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クラウド・ウォッチャーというのは名案ですね。
鳥でも草花でも虫でも星座でも、眺めて楽しめるものは他にも沢山あると思いますが、子供の頃から慣れ親しんでいた人ならいざ知らず、どれも評者にとっては入門の敷居が高く、気軽に入れる世界でないというのが悲しい実情でした。
ところが、雲はそんな怠慢な評者でも歓迎してくれそうなことを本書を読んで感じました。
何しろ大した知識や道具の準備も不要ですし、いつでもどこでも屋外に出れば観察できるというのが大きいと思います。
当面入門段階では、本書とカメラを常時携帯して置いた方が良さそうですが、それでその楽しみが何倍にも膨らむのであれば有難いですよね。
本書は全112ページと大変手軽で持ち歩きには大変便利です。
内容的には見開き2ページで、テーマとなっているひとつの雲(現象)について、きれいなカラー写真とコンパクトな説明文がついているといった構成になっています。
最初の4分の1はその雲の出現する高度に沿って、十種雲形(積雲、層積雲、層雲、巻雲、積乱雲、など)が取り上げられ、後の4分の3はやや視点を変えて雲の見え方に従って、レンズ雲、蜂の巣状雲、頭巾雲、乳房雲、馬蹄雲などが多数紹介されているほか、光輪などの光学現象、幻日などのハロ現象も補足的に取り上げられています。
そして本書の大きな特徴と思われるのは、掲載されているカラー写真がすべて、著者の主催する(?)「雲を愛でる会」に属する世界各国の会員が撮影したものらしく、各写真の下に撮影地のみならず撮影者の会員番号と名前も添記されており、また夫々の雲に遭遇するチャンスに応じて「この雲を見つけたら20点」などと発見の難易度も表示されているので、「よし、ひとつ自分もやってみるか」という気をそそるように工夫がなされている点です。
こうして無事にクラウド・ウォッチャーになれたら、ストレスフルな日々の生活の中に心の和めるツールをひとつ手にできると思うので、★5つといたします。
雲も夢もモクモク
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雲の図鑑です。「雲を愛でる会」の創始者である著者による雲への愛に満ちた解説がよく、世界中の会員の方々による色んな雲の写真がたいへん美しい一冊です。お出かけに持っていって空を眺めつつ参照すれば、どの雲が何ていう名前でどこからやってきて今はどの辺に住んでるのか分かって楽しいです(どの雲の変種だとか、高度何千メートルだとか、そういうことね)。
より楽しませる仕掛けとして「これを見つけたら何点。ついでにこんな感じだったらボーナス何点」という感じでこちらを煽ってきますので、「あの毛状雲、もーちょっとウェービーにカールせえへんかな」とか、「それか伸びて放射状雲にならへんかな」などと期待したりもします。地面からフーフーしちゃったりしてね。
いつか死ぬまでに、くっきりとしたケルビン・ヘルムホルツ波の雲(これを見つけたら最高点です)が、夕焼けに染まる瞬間を見られたらいいな。隣にあの人がいたりしてさ。それって言ってみりゃ、「九連宝燈を天和であがったら八連荘目だった」みたいなもんだと思うんだ。
空と雲を小さな写真に閉じ込めておくのがもったいない本
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Gavin Pretor-Pinney, "The Cloud Collector's Handbook"(2009, Sceptre)の翻訳が本書です。
様々な雲を写真とともに解説するもので「こんな雲があるんだ」とその美しさに、空と雲を小さな写真に閉じ込めておくのがもったいない気もちで「もっと大きな写真で見られたら・・」と思ってしまいました。(原書は11×15cmほどのポケットに入れて野外で雲の観察に利用という企画のもので、本書もそれに準じたと考えられますが・・)
著者により"The Cloud Appreciation Society", "The Clouds Collector's Reference"のWebサイトが運営され、後者は本書の内容とも関係します。こちらの閲覧もお勧めします。