ここには、中南米最大の作曲家エイトル・ヴィラ=ロボス(1887-1959)、ボサノヴァの創始者アントニオ・カルロス・ジョビン(1927-1994)、ブーランジェの弟子でシチリア系移民の子孫であり、交響楽からオペラ、室内楽まで作曲したモザルチ・カマルゴ・グアルニエリ(1907-1993)、ヴィラ=ロボスがブラジルで最も重要な作曲家とみなしていたショーロの巨匠ピシンギーニャなどが、渾然一体となって響きあっている。
考えてみれば、ヨーヨー・マ自身、パリ生まれの中国人チェリストとして、ある意味文化の多様性を自分自身のなかに抱え込んでいる存在でもある。ヨーヨーが純クラシックに留まらずに、世界のあらゆる国々の音楽を渡り歩き続けるのは、それがきっと彼自身の自分探しの旅でもあるからなのだろう。世界中のどの国の音楽を演奏しても、ヨーヨーは、自分の故郷の音楽のように熱い共感をもって演奏しているのが、その何よりの証拠だ。
参加ミュージシャンでは、現代ブラジルの代表的歌手の1人ホーザ・パッソスの艶っぽいヴォーカル、ホメロ・ルバンボの静かなギター、パキート・デリヴェラの抒情的な音色のクラリネットが光っているほか、ヴィラ=ロボスの後継者エグベルト・ジスモンチ(1947-)が2曲、ピアノ、ギター&フルートでヨーヨーと共演しているのもうれしい。ヨーヨーはいつもそうなのだが、自分の技を聴かせることよりも、他のミュージシャンからうれしそうにさまざまなインスピレーションを受け取り、その交感をたのしみ、聴き手をもその触発に巻き込もうとしている。(林田直樹)