キフの紫煙のような幻想譚
★★★★★
グアテマラ生まれのレイローサによる中篇。
巨匠ポール・ボウルズに引き寄せられてモロッコに渡ったレイローサが、
モロッコはタンジェを舞台に描く不思議な味わいのある物語。
羊飼いの少年ハムサ、フクロウを連れて彷徨うコロンビア人を軸に、
彼の地の呪術、キフ(麻薬)、同性愛、フクロウの視線などが織り成す
さまざまな挿話と思いがけぬ小事件の重なり。
多用されるベルベル人の台詞と、ヨーロッパ人らの豪奢な生活。
これらがコスモポリタン的タンジェを浮き彫りにする。
「アメリカ人」コロンビア領事のモデルとなったであろう師ボウルズは、
奇しくも原書が出版をみた99年にその生涯を閉じている。
本書は師と師が愛したモロッコへの鎮魂の表明なのだろうか。
小冊ながら、読者の境界認識を曖昧にし迷宮へ誘う、まさに傑作。