ホモロジーとホモトピー
★★★★★
この本では、幾種類かのホモロジー論の基礎が論じられている。
ホモロジー・コホモロジー理論の基礎を学ぶのに、これ以上の教材はないと思う。
1)まず、(必ずしもコンパクトとは限らない)単体複体のホモロジー論を厳密に定式化し、
そのホモトピー不変性を証明する。 その中核になるのが、単体近似定理である。
2)次に、特異ホモロジー理論を厳密に定式化し、単体複対のホモロジー理論との
同型性を示す。その関連で、CW 複体のホモロジーの計算が述べられる。
このあたりまででは、Brouwer の不動点定理・領域の不変定理・ジョルダンの閉曲線定理や、
射影空間・レンズ空間のホモロジー群の計算などの、重要な例がでてくる。
3)第3の重要なホモトピー不変量として、コホモロジー群が定式化される。
やはり、単体コホモロジーと特異コホモロジーの2種類が紹介されるが、
それらが互いに同型であることが、ホモロジーの場合の知識を用いて証明される。
このあたりでは、ホモロジー代数の知識が必要とされるが、著者はそれを丁寧に記述している。
そのホモロジー代数と、位相空間のホモロジー理論の融合として、
普遍係数定理や、Kunneth の定理が証明され、
任意係数のホモロジー群・コホモロジー群の計算、
積空間のホモロジー・コホモロジー群の計算の道具を与えている。
また、コホモロジーでは、いろいろな演算も導入されている:
クロス積・カップ積・キャップ積などがそうであり、
特に、カップ積は、ホモロジーでは定義されえなかった、コホモロジー代数の構造を定義する。
4)最後の章では、ポワンカレ、アレクサンダー、レフシュッツらによる
ホモロジー多様体の双対定理が懇切丁寧に証明されている。
コホモロジーからホモロジーへと、双対を取る写像が、具体的に記述できるのが、ありがたい。
なお、本書の最後の定理として、有名な、ジョルダンの閉曲線定理の高次元版が、
一般化されて証明されている。
余談:岩波書店から出版されている書籍:
「知」の欺瞞(アラン・ソーカル、ジャン・ブリクモン共著)
に、ソーカルのパロディ論文の和訳が掲載されている。
この中の脚注(p299)において、本書のことが
「ホモロジー理論へのすばらしい入門書である」
と紹介されている。
(パロディ論文の引用文献として、本書の名前が挙がっている。(p.326))