ものすごい前書き
★★★☆☆
最近の認知科学の動向をまとめた教科書シリーズの1冊。
何より27ページに及ぶ乾氏による前書きが凄い。認知科学の先端でもっとも基本的な考え方を,極めて明快に簡潔に,述べている。発達や進化についてだけでなく,認知科学全般についての,最高のガイドになっている。ここだけでも必読だ。
ただ,それに比べて本文は平凡。物語を実験で裏付けるような旧来の心理学的アプローチや,本質である数式をやけに除いた説明など(きっと編集部に言われるのであろうが,),凡庸な内容にとどまっている。そして最後は地球誕生から生命の神秘まで気ままに語るエッセイで締められる。
圧倒的に濃密な前書きがあるだけに,本文への期待も膨らんでしまったが,教科書としてはこれでいいのだろう。前書きだけでも一読をお勧めしたい。
相変わらず見やすい組版,しっかりした装丁だが,それにしても高価ではある。