書名から内容を想像された方のために書いておくが「サルとヒトの差異を明確にするんだ」というような強い方針がある本ではない。最初は生活史という考え方がどのようなものかから始まり、我々日本人における生活史を見つめることが導入である。そしてそこで考える基準となるエネルギーの分配のトレードオフについての考えの対象をサルにまで拡張する。そうしてサルとヒトを見比べてみてどうなのかなという程度の本である。
とはいえ実際サルとヒトの区別が難しいのが最先端だという面もある。そのような科学的に裏づけされているとする内容を背景として用いながら、収支エネルギーの分配を触媒としてサルとヒトを見つめ直すちょっとして良書であるといえるだろう。
前半は生活史戦略の概説.ここはとてもよくまとまっている.これまで生活史戦略の本を読んだりするといきなりl(x),m(x)とか遷移行列とかわらわらと出てきてよいしょっと腰を据えて読まなければならないことが多いのですが,本書は一般向けにやさしいところを解説してある.
中盤では霊長類の生活史戦略について.ここではいろいろな詳細が語られて楽しい.肉食動物より草食動物の方が少子戦略をとっているとかコウモリ類の特殊な生活史戦略とか発見することも多く満足です.
後半はヒトの生活史戦略について.霊長類と比較した場合の子供期,若者期の存在について詳しいのですが,正直ここはそんなに興味深くはない.(要するにいろいろな生態環境があって結構進化上で変化しているということなのではないかという感想.学説史としては面白いかも)著者はエネルギー収支の生活史戦略に興味があるようでそこも詳しい.
面白い問題の多い女性の閉経についてはごくさらっと扱っていて残念.
近代化社会の少子化にも触れています.
最適化戦略として孫の数を最大化するという説には疑問視.進化心理的な説明に傾いています(著者は深層心理というような言い方).
ここで富の蓄積執着説と教育費負担説を紹介して筆者自身はエネルギー収支という観点も合わせて教育費説を押しています.
最後に現代日本についてのさらっとした著者の見解があっていきなり現実味があります.
結論としてはコンパクトな良書です.