では、その結果として、『債権総論1・2』とどのような違いが生じたのか?
――特徴は大別して、以下の2点である。
第1に、『債権総論1・2』には1つも存在しなかったケースが多用されている。
但し、ケースと言っても、他の教科書類とは異なって、そのケースの解説・解答が書かれているわけではない。解答は自分で考えよ、というのが筆者のポリシーである。
この意味で、本書は、周囲に本書を読んでいる複数名の人間が存在することを予定した=議論を予定した「教科書」と言える。ローや学部には良いが、独学用には向かないかもしれない。
第2に、筆者の自説の主張の部分が少なくなった。と言っても、全く無くなってしまった訳ではなく、現在の学界の多数説・有力説と自説が一致する場合には、ちゃんと主張されている。省略されているのは、筆者を筆頭に唱えられている少数説――潮見先生は債権法の大家なので、事実上の単独少数説もあるが――である。
しかし、これはロー・スクール、学部向けの教科書としてはむしろ適切であろう。「教科書」とに求められることは、正確な記述と現在の判例・学説――特に通説・多数説――への言及である。とすれば、少数説の記述は控え目でも構わないはずである。
ただ、裏を返せば、本書は研究の為には向かない。従って、研究目的であれば、『債権総論1・2』を購入すべきである。
以下、補足。
★記述は非常に堅実であり、正確である。ただ、預担貸の客観説の記述は若干特殊である。
★他の教科書類のミスリーディングな記述についても指摘されている。
★要件事実論や民事訴訟法についても必要な限りで言及されており、ロー・スクールへの配慮が窺われる。
尚、本書は最近の学界の多数説である、債務不履行一元論の立場から書かれている。つまり、判例や伝統的な学説が採用する債務不履行三分体系ではない。注意されたい。