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メモランダム 古橋悌二

価格: ¥2,310
カテゴリ: 単行本
ブランド: リトルモア
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   ダムタイプという日本のアーティスト集団をご存じだろうか。映像・照明などのテクノロジーを独自に駆使することによって生み出される比類なき美しさと、現代社会への強烈なメッセージ性、それにユーモア、それらを見事にあわせ持つ舞台作品やインスタレーション作品で、国際的にも高い評価を得ている集団である。なかでも代表作である舞台「S/N」は、高い評価と同時に多くの議論を巻き起こす問題作ともなった。

   本書は、ダムタイプのオリジナル・メンバーの1人であり、1995年にエイズによる敗血症のため35歳で夭折した古橋悌二が生前に残した、美術展カタログなどへの寄稿文、友人たちにHIV陽性であることを告げる書簡、彼の受けたいくつかのインタビュー、「S/N」終演後のアフター・トークの採録、などにより構成されたものである。人生に対して、芸術に対して、友人に対して、現代社会のあり方に対して、ゲイであることやHIV陽性であることに対して、そのどれについて語る彼の言葉も、曇りなき真摯さに貫かれ、それは読む者の心に深く突き刺ささらずにはおかない。これほどの真摯さにあふれた同時代の言葉を目にしたり耳にしたりする機会は、そうそう得られるものではない。

   ダムタイプの作品を見たことがなくとも、たとえその名を今まで1度も聞いたことがなかったとしても、本書に込められた今は亡き1芸術家の真摯な言葉を目の当たりにするだけでじゅうぶん貴重な体験となるだろう。(岡田工猿)

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悲劇とヒューモアについて ★★★★★
 古橋悌二氏が書いた文章、批評家との対談、そして追悼文により構成されている。この本を買った当時は批評家達との対談が目当てだったのだが、今回読み直してみると、古橋氏本人の言葉の冴えに感じ入った。

 特にエイズであることをカミングアウトしてからの言葉は非常に示唆に飛んでいて、D.ジャーマン「ブルー」や言わずと知れたハリウッド映画「フィラデルフィア」とは違った、安易に悲劇に回収されないような「エイズの語り方」について、PC(Political Correctness)の罠に関する挑発的な指摘を行っている。

 また、非常にメッセージ性の強いパフォーマンスを行いつつも、言語表現によるレポートやアジテーションではなく、なぜパフォーマンスを通して表現するのかということについて批評家達を相手に真摯に語っているのだが、これも凡百のテクスト/文学論よりも示唆に富む。

 ソクラテスが死んだ時に弟子たちは笑い転げたというが、このエピソードをかつて柄谷行人は「ヒューモア」(=普通の「ユーモア」「ギャグ」とは似て非なるものです)の例として挙げた。古橋氏は常に笑っている人だったと盟友・浅田彰氏が追悼文で書いているが、安易な悲劇に対抗する「ヒューモア」を持ち込んで、作品「S/N」を単なるハイテク・パフォーマンス以上の芸術に仕立て上げた古橋氏らしいエピソードだと思った。