本書は、ダムタイプのオリジナル・メンバーの1人であり、1995年にエイズによる敗血症のため35歳で夭折した古橋悌二が生前に残した、美術展カタログなどへの寄稿文、友人たちにHIV陽性であることを告げる書簡、彼の受けたいくつかのインタビュー、「S/N」終演後のアフター・トークの採録、などにより構成されたものである。人生に対して、芸術に対して、友人に対して、現代社会のあり方に対して、ゲイであることやHIV陽性であることに対して、そのどれについて語る彼の言葉も、曇りなき真摯さに貫かれ、それは読む者の心に深く突き刺ささらずにはおかない。これほどの真摯さにあふれた同時代の言葉を目にしたり耳にしたりする機会は、そうそう得られるものではない。
ダムタイプの作品を見たことがなくとも、たとえその名を今まで1度も聞いたことがなかったとしても、本書に込められた今は亡き1芸術家の真摯な言葉を目の当たりにするだけでじゅうぶん貴重な体験となるだろう。(岡田工猿)