現代日本の都市と小売業を「流通地理学」的視点でみた名著
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本書は、流通地理学の観点から1990年代をまたいだ流通システムの変化についての論文を集めたものです。日本の流通地理学界の重鎮から若手までが参加し、都市と流通に関する様々なトピックを多面的に取り上げています。
従来、国内における経営学的・マーケティング的視点と地理学的視点は、かなりの乖離があると言われていました。しかし、本書の編者たちを中心とした流通地理学研究者たちは、欧米の"New Retail Geography"の刺激を受けながらそれらの乖離に目をむけ、「流通地理学」という従来のいわゆる「商業地理学」とは異なった新たな分野を創出しつつあります。その現時点での結晶が本書といえるでしょう。
特に地理学的観点による新たな知見が目立つのは、「大都市圏における百貨店の特性と商圏構造」・「大都市圏における大型小売店の競合と棲み分け」・「空間消費の『二極化』と新業態の台頭―高質志向スーパーとスーパーセンター」の各章かと思います。これらの章では、従来マーケティング的観点から指摘されてきた国内市場の分化・多様化を、企業側の経営戦略の変化・差異のみならず、商業地区と周辺地区との結びつきや地区別の消費者行動の差異、消費者の文化的バックグラウンドといった、都市の物理的・社会的な面と関連付けて述べており、従来のマーケティング研究・社会学研究等とは一線を画しています。
もちろん、本書の内容には一部経営学・マーケティング研究等に遅れをとる部分もありますが、現代日本の都市と小売業の関係を見ていくには必携かと思います。
まちづくり・中心市街地活性化等に関心のある方も、前段階としての状況把握に役立つかと思いますので、ぜひご一読をお勧めします。