笑ってジャンプ!
★★★★☆
いつもながら伊東さんの多才・博識ぶりが炸裂しています。
ただ、深いところでの理解が得られるというよりは、週刊誌的に様々な話題が表層的な理解のままでどんどん流れていく、という印象が強いのです。
いや、伊藤さんが表層的と言っているのではありません。
私の理解が追いつかないと言っているのです。
例えば商品が売れている会社が黒字倒産になるような話がたとえ話で突然出てくるのですが、具体的にどういうことなのかは言わないで先に進んでしまうので、置いてきぼりを食らったようになるのです。
もちろん疑問があるたびに自分で調べたり考えたりすればよいのだと言われればそれまでですが、そんなことしていたらこの本を読み終わるのに数年かかってしまうでしょう。
ところで、ノーベル賞脳科学者であるヴィーゼルさんは、「自然科学」「人文・社会科学」「アート」の三つをバランスよく伸ばすことの大切さを訴えているようです。
さしずめ伊東さんはそれを体現しているといってもよいのかもしれません。
現代のダ・ヴィンチと言ったら言いすぎでしょうか?
最終章に「幸せを創造する賢い笑い方」として、「笑う脳」の5つのゴールデンルールが示されています。
手っ取り早くこの本の要点を捉えたいのならここから読むのがよいかもしれませんね。
「笑う脳」は,結構,目まぐるしい
★★★★☆
まずは筆者の多才さに目を奪われる.作曲家であり指揮者という音楽家の顔と,脳科学の研究者といった顔をあわせもち,その2方向からのアプローチが,この著作の中で連結している.この守備範囲の広さには驚くしかない.
音楽家が観衆の前であがりを防ぐためには,脳をリラックスさせる(笑わせる)ことが大切であるという切り口から,話は展開されている.fNIRSという脳内の血流を測定する装置からのデータを基にしており,説得力のある議論といえよう.「脳をリラックスさせること」,「直感には惑わされないこと」,「論理的に考えた後の残りの部分は思い切りよく意思決定すべきこと」などが主たる主張であろう.
ただし,音楽からのアプローチだけでなく,様々な問題から話が進められており,少々うるさい印象が残る.音楽以外にも,スポーツ,脳内の動物の比喩(情報処理の2つの経路),ベルクソンの哲学,コンピュータ,ケータイ,恋愛,セックス,教育,化粧,グルメなどの話題が目まぐるしく現れ,大忙しである.一般に向けて書かれたであろうこの著作では,内容があまりにも多面的すぎて主張が理解しづらくなっているのでなないか.もっと落ち着いて,ゆったりとした気分で音楽からのアプローチを楽しみたかった.それこそ,脳が笑うかのように.