同じ著者の「心理テストはうそでした」は、従来広く使用されている心理テストが実際には実証性の薄いものであることを示したという点で、衝撃的であったが、あくまで一般向けであり、参考文献も十分ではなかった。この本は、各種テストについての実証研究を体系的に紹介し、その問題点や特性、（場合によっては長所）を明確にしており、いくつかのテストについては「心理テストはうそでした」の実証的な根拠や論文が示されており、専門家向けとして有用である。驚くべきことに、市販されている心理テストの専門書は、スコアリングと事例しかのっておらず、その実証性についての吟味がまったくなされていないし、最近の研究もほとんど無視しているものが多いのである。そのような意味で、この本は、日本で始めて出た心理テストの専門書であるといっても過言ではないであろう。とくに興味深かったのは、ウェクスラー式の知能検査に関する記述であり、私も専門はちがえど心理学者ではあったが、いままで、このテストだけは本当にしっかりしたものでもんだいなどないと思っていた。少し衝撃である。心理学を専攻する人はもちろん、とくに臨床心理学コースの大学院生は必ず熟読しておくべきであろう。