「金閣」を背景にいい年をした2人の男が学生帽に学生服、首からはカメラを下げて直立不動で立っている。マジメなふりをしているが、目がそこはかとなく笑っている。南伸坊装丁の表紙を見て、「あれか」と思われた人は相当な「美術好き」、いや、実は「日本美術応援団」団員の人かもしれない。
21世紀の新しい娯楽「日本美術」の応援を展開するマジメな団体にして1996年、今はなき日経アート誌上にて結成された「日本美術応援団」。その団員第1号である赤瀬川原平(ほかに、元前衛芸術青年、芥川賞作家、路上観察学会長老とさまざまな肩書きをもつ)と、同団体団長である山下裕二(表向きは日本美術史を教える大学教授)との2人が、場所を京都に移して、前著『日本美術応援団』に引き続いて出した対談集である。
目次だけを見ても本書は楽しい。その一例。「金閣:“むきだし”の金は今日もリニューアル中」「二条城:ゼネコン狩野株式会社の大仕事」「平等院:平安貴族が夢見たサンダーバード基地」など。誰もが知っている有名寺院が多数だが、見学先には「樂美術館」「待庵」といった「通好み」の場所もある。おまけにこの2人、随所で特別拝観を許されているので、そのルポには心ひかれる(お茶好きな人ならば、著者たちのように待庵で利休・秀吉ごっこをしてみたいだろう)。
一般人とはちょっと異なった芸術家ならではの視点で、ブランド中のブランドというべき京都の新たな魅力を語ってくれる。「あとがき」に続く「手引き」によれば、「オトナの修学旅行には本書を必ず持って来ること」とある。一人旅でも本書を携帯すればきっと3人で行った気になるだろう。「修学する」ための旅行には、さまざまな経験を積み重ねた「オトナ」の先達はぜひとも欲しいものであるから。いとうせいこう・みうらじゅんの『見仏記』を読まれた人にもおすすめだ。(稲川さつき)
大人こそ本書の価値が分かろうというものです
★★★★★
まずタイトルが秀逸で、『京都、オトナの修学旅行』って何だろう、と読む前からワクワクする題名です。
確かに、京都は今も昔も修学旅行の代名詞のような街ですが、廻った社寺仏閣の印象は退屈だったという印象しかないでしょうし、旅館での枕投げと新京極でのお土産物の購入しか記憶していない、というのもよくある話です。
京都を訪れるのは、まさしく「大人」のほうが良いですね。路上観察学会長老で芥川賞作家の赤瀬川原平氏と、日本美術史を専門とする明治学院大学教授山下裕二氏による京都の名所旧跡を巡る旅の全てが知的好奇心を満たす含蓄に富んだものでした。
取り上げた社寺は、確かに修学旅行で必ず廻るような場所ですが、「日本美術応援団」として著書を出している二人の会話は珍しい視点から対象物を取り上げていますので、子供の修学旅行で得られる体験とは全く違う次元のものでした。
本書の内容は、金閣―「むきだし」の金は今日もリニューアル中、二条城―ゼネコン狩野株式会社の大仕事、東寺―とうじのまんま、ぶっきらぼうに並んでます、高台寺・円徳院―和尚の留守中に描いちゃいました、清水寺―信仰と観光の幸福な結合、京都御所―ミカドの留守番130年、桂離宮―純粋な贅沢を死守してきました、平等院―平安貴族が夢見たサンダーバード基地、銀閣―砂に銀を映したアーティストは誰か?、楽美術館―楽茶碗、15代目も楽じゃない、待庵―利休がしかけたワナつき二畳、嵐山―マル貧修学旅行生、嵐山の秘部に迷い込む、となっており、総括 京都美術観光論、あとがき 日本美術応援団 京都へ(山下裕二)で締めくくられています。
本書の記載箇所は、待庵以外全て訪れていますが、物の見方を変えるとこうまで新鮮に映るのか、という感覚を覚えました。大人の鑑賞に堪えうる本です。
京都って奥が深い
★★★★☆
知れば知るほど京都は奥が深いなぁと関心しながら読んでしまいました。
二人のおじさんがそれぞれの知識を拡げながら京都の醍醐味を伝えてくれます。自分も、「自分なりの知識で京都観を深めたい、負けてられない」と思い、なんだか自分なりの京都論をもつ楽しみを学んだように思います。
何度も通っている京都だけど
★★★★★
この本を読んで、今まで行ったことのなかった高台寺を訪問したくなり、時雨亭、傘亭を見に行き、正直唖然とした。これが本来の茶室だったのか。園徳院の長谷川等伯の襖絵は、正直良さが良く分からず。東寺は何回も行っているが、仏像の記憶が全く無いことに気づいた。などなど、京都通と思っている人ほど、面白い本だと思います。今まで知っている筈の京都と、この二人が見ている京都は少し違うため、とても新鮮。これからは、彼らの(赤瀬川、山下両氏の)目で見た京都も加えれば、京都観光、いや、日本美術鑑賞の幅がぐーーんと広がるでしょう。
見る力を身に着ける
★★★★☆
ブランドや有名どころがなぜ良いのか。実はそれが分かるには、それ相応の大人の努力が欠かせないのではないかと思った。ではどうすればよいか。なにごとも自分の力で能動的に接すること。そうすれば見る力が養われ、新たな時間や空間を得、自由度も増すと著者たちは言う。もちろん楽しみも大きくなる。
狩野派はゼネコンでありマイクロソフト。一方等伯はマッキントッシュなど、現代にあわせた愉快で楽しくなる比喩が可能なのも二人の日ごろの鍛錬の賜物といえる。そして私たちを一級ブランド、京都の美術世界へやさしく案内してくれる。
この本を読むと凝り固まった体の疲れと緊張がほぐれ、なんだかほんわかと楽しくなってくる。
知られざる京都?
★★★★★
いい年したおっさんが学生服を来たコスプレ装丁は一瞬ひきますが(笑)、普段見落としがちなものを見付まくる探求心と遊び心、しっかり美術史の講義もしてくれ、とても勉強になります。
例えばこの本の表紙を飾っている建物、正式には「金閣寺」ではないんですよ!(詳しくは本文を参照)