信頼できる通史!
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本書は、東大教養学部での著者の講義録を再現したものである。アヘン戦争から第2次大戦の終結までの時期を対象としている。教養学科の講義であるため「国際関係史」と名付けられているが、その内容は法学部における「政治外交史」とほぼ同じである。
実は30何年も前、レビュアーたる私は、ある弱小私大で兼任講師である著者の講義を聴いた。その時の著者の印象は、私大の学生を相手にしてあげているという感じで、あまりいいものではなかった。東大の権威主義が言葉の端端に感じられたのだ。大学紛争の影響下で、当時の学生はみな生意気であった。
時は流れ、著者の歯に衣着せぬ言動をいくつも見聞してきた。中国政府への率直な苦言、青山学院大学教授を辞任するに当たっての苦言、亜細亜大学学長としての学生への期待を込めた一文など、どれも著者らしい刺激的なものであった。だが、いま私の年齢になってみれば、至極当然と感じられることが多い。「人にはそれぞれの役割がある、利害得失ではなく信じるところに従って学び努力せよ」と、著者は学生に言いたかったのではないか。
本著の最終章は「人の世の悩みは絶えぬ」と題され、戦争と平和、人類の新しい課題(生態系の破壊)について記され、これらの問題について日本人は積極的に関与せよと主張する。これは、旧著「日本の進路」以来の著者の一貫した態度である。
本著の巻末には、小説・随筆まで含む豊富な参考文献リストが付けられているので、通史として本書を読み、さらに関心を深めることも出来る。