格闘シーンではなく、人間模様をエピソードごとに楽しむ本
★★★☆☆
入門者300人から1人と言われる、強豪空手道場の黒帯を持ちながら、会社からリストラされ、気弱で、超お人好しな男性が主人公のお話。そんな性格の人間が、それほどの難関の黒帯を締めることが出来るのか?という疑問が湧きますが、そこはお話ということで納得しましょう。
そんな主人公が、元日本チャンピオンの先輩が起こした道場を押しつけられ、再就職活動も進められないまま、ずるずると道場再建に奮闘してます。そこには、同じくリストラされた中年の空手初心者や、暗い過去を持つ恋人らが集まり、人の弱さから生じる難題に立ち向かっていきます。
この巻では、5つのエピソードが収められていますが、いずれもその難題を完全には解決できないことで、現実社会の問題の深さを描き、そこに立ち向かい悩む主人公の様子が、現実を完全にはあきらめない気持ちを起こさせてくれる気がします。
空手という素材を生かすためか、諜報機関などが絡む、やや突拍子もない展開があったり、エピソードごとに同じ人物の性格が少々変化したりと、読みにくい部分もありますが、この本の本質は、様々な人間の関わりを描いている部分であり、この部分を楽しむ物語だと思います。
格闘シーンが秀逸
★★★☆☆
会社からリストラされ、
かつての先輩から空手道場の経営を押し付けられ、
恋人や後輩からは「お人好し」といわれ、
道場生の高校生からは「先生は単純でいい。素晴らしいよ」と逆に感動される、
そんな男が主人公だ。
入門300人に1人といわれる無双塾黒帯をもち、その腕で幾つかの事件を切り抜けながらも、
最後にかすかに苦い味が残るのは、お人よしの空手バカが簡単にさばけるほど
世の中は甘くないということだろう。
各話の格闘シーンの爽快感と、それぞれの苦みの残る締めが秀逸な連作短編集だ。
強いて難点を挙げるとすれば、随所で語られる神野という先輩の逸話から受ける印象がバラバラで、
キーパーソンとも言うべき神野のキャラクターが最後まで良くつかめなかったことか。
もうちょっと登場場面が多ければうまく印象が融合したかもしれないのに、その点が残念だ。