興味深いが……
★★★★☆
以前、小谷野敦が、日本文学研究はやりつくされてしまった感があるといっていたが、そんなことはない。詩、戯曲その他も「文学」なのだが、それを多くの人が理解していないだけだ。日本の近代詩を考える上で大きな問題となるのが、第二次大戦までの所謂「戦意昂揚詩」である。戦後、特に詩誌『荒地』の詩人達、鮎川信夫や吉本隆明らがこれを強く批判した。
本書の著者、瀬尾育生は、吉本隆明の強い影響下にある詩人・独文学者。実は、私は、必ずしも彼のいい読者ではない。ただ、本格的な戦争詩論ということで読んでみた。論点は多岐にわたっており、当然ながら興味深い部分を多く含む。例えば、モダニズム詩のメカニズム、プロレタリア詩の対社会姿勢に、超越性や戦争が移入していく経緯。言語を用いる詩には、藤田嗣冶の「アッツ島玉砕」のような作品が不可能であったこと。最後の、散文と詩に関する位置づけ。他にも、群衆論や大江満雄、高村光太郎論などが注目される。
ただ、やはり違和感も残る。特に著者は、吉本隆明の影響を徹底的に継承しようとしている。従って、概念や用語法が独特だし、文体も読みやすいものではない。せっかく興味深い論点があっても、一度にあまりに多くのことが語られ、理解しにくくなったりしている。こうしたところを変えればより読者が得られると思うのだが、著者が自らの姿勢を変更することはないだろう。その点は個人的には残念だ。