マスタべーションについては、フランスなどに相当の研究実績があるようだが、日本人の手になるまとまった書物は決して多くはない。この書物は、西洋のマスタべーションに関する主要文献を渉猟し、西洋社会でマスタべーションがどのように解釈されてきたかを簡潔に紹介する「マスタべーション入門書」である。したがって、これに類する書物は欧米に相当数存在している。(例えば、Masturbation: The History of a Great Terror by Jean Stengers & Anne van Neckなど)内容的にはそれらと大同小異であるから、著者が「あとがき」で、「ここに書いたことにはすべて明確な証拠があるということだ。・・・・誰かの議論を借りてきて一見、格好よく見える、それていて実質的にはたいしたことは言っていない-こんなものの言い方はまったくしていないということでもある」と自画自賛しているほどには独創的なものでない。第一、そういうことは読者が判断することであろう。 先行研究が少ないから困難ではあろうが、日本社会におけるマスタべーション解釈の変遷と現状を、西洋の事例を踏まえて論じるならばそれこそ独創的というもので、著者にはそのような仕事を期待したい。