過去に起きた真実を消すことはできない
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本屋でページをめくって、最初の文章、The girl was the first to hear the loud pounding on the door. ----- “Police! Open up! Now!”、に目を奪われ、背表紙の解説で第二次大戦下のユダヤ人迫害の話だということがわかったときに、私は躊躇無く支払いカウンターに向かっていた。
過去に起きた真実を消すことはできない、または、真実の探求を恐れてはいけない、というのがこの本を読んだ感想である。
この話は、ジャーナリストを職業に持つ、妻であり母でもある一人の女性が、ドイツ占領下のフランスで起きたユダヤ人の悲劇を取材していく、という設定である。
前半部分はユダヤ人の少女・サラが1942年に辿った過酷な体験と、時を経て2002年にJuliaというアメリカ人が取材したVelodrome d’Hiver事件の経過とを交互に語る、という形式を取っている。その過去と現在を舞台にした語り口が絶妙に構成されており、どんどんと読み進むことができた。英語も読みやすい。
著者はサラの悲惨な日々を描く一方で、収容所から逃がしてくれた警官や、家にかくまってくれた農家の老夫婦の存在を取り上げることで滅入りがちな読者の心を救ってくれる。収容所から逃げてきたサラとレイチェルを一瞬の迷いも無く老夫婦がかくまう場面には、思わずその情景が頭に浮かび上がって、快哉を叫びたいきもちだった。
この本は、ユダヤの人たちが理不尽にも蒙った惨劇を知らしめることによって我々に戦争の悲惨さ、ナチの残虐さを訴える、ということだけを目的としたものではない。一人の人間が真実を求めることの誠実さを著者は書きたかったのだと思う。過去の出来事に対する敬意、或いは反省、または物事の正邪を感知することのできる感性など、こういうものを人間は失ってはならない、ということを私はこの本から教えられたと思う。
人間としてこういう生き方もあるのだと言うことを知るために、多くの人に読んでもらいたい本である。