ひっそりと雨の日の夜に読みたい。
★★★★★
簡潔で且つ実話という両方の条件を満足し、更にPaul Austerによって選び抜かれた短編の集まり。
人間が生活、それがいかに面白い現象であり、ありふれたようでいてそうでいないか、貴重であるかという事を実感させてくれます。Austerが選んだ、というのがよくわかる空気感。
雨の日、夜にひっそりと読むと落ち着きます。
必読
★★★★★
もう絶対に絶対に必読です…。
特に後ろ向きになってるとき、
人生に懐疑的・否定的になっているときに読むと、
marvels of life/ wonders of life を
ちょこっと思い出させてくれる、
ほんとうに良い本。
「実話であること、簡潔であること(長々とした壮大な物語でないこと)」
という要件でラジオ番組の聴取者から投稿を募り、
寄せられた膨大な数の「お話」の中から
選りすぐりの180編を収録した一冊。
作品は便宜上ANIMALS、OBJECTS、FAMILIES、SLAPSTICK、STRANGERS、
WAR、LOVE、DEATH、DREAMS、MEDITATIONのカテゴリーに分けられ、
これらの章立て、のような形で一冊の短編集として編成されている。
正直言うと
「普通の市井の人たち(文筆家ではない素人)が書いた短編を集めたもの」
ということであまり期待はしていなかった。
ただ一篇一篇が数ページと非常に短いので、
電車の中などで読むのに都合が良いか…くらいの気持ちで読み始めた。
そんな自分がバカでした…
可笑しい話。
不思議な話。
哀切な話。
何気ない日常の風景画ただ淡々と描写されているだけなのに、
何故か圧倒されてしまう話。
人生の喜怒哀楽、ウィットにペーソス、卑小に高邁、
全てがこの一冊に凝縮されていて、読み始めたら止まらなかった。
あっという間に180編全て読了。
ただただ、素晴らしかった…。
くすっと笑ってしまう話、
偶然と呼ぶにはあまりに不思議な話、
180編の中で「これ、いいなぁ」と思ったものには
ドッグイヤーをつけておいたところ、
読み終えたら次の12編にドッグイヤーしていた:
The Wednesday Before Christmas
Act of Memory
The Iceman of Market Street
My Story
Christmas, 1945
Awaiting Delivery
The Day Paul and I Flew the Kite
Seaside
Peter
Early Arithmetic
Homeless in Prescott, Arizona
An Average Sadness
特に最終「章」となっているMEDITATIONにカテゴライズされていた作品は
概してどれも極めてクオリティが高い。
或いは、今自分があまり良い状態ではないから、
余計にこういう種類の作品に胸を打たれたのかもしれないけれど。
中でも一冊を通して、最も感銘(天啓に近いものがあった)を受けた作品が、
終わり近くに出てくる「Seaside」。
ここにはある種のresurrectionが描かれているのだが、
そうだ、人間は生きたまま生まれ変われるのだった、と
私自身が数年前に体験した(個人的に)稀有な経験を思い出させられた。
沈む夕陽、昇る朝日、波間で踊る彼女、
全てが一体となって完全な調和を為しているこの世界…
知らず涙が沸いてきて止まらなくなる、
ほんっとうに美しい作品だった。
そして最後、180編もの作品のトリを飾る
「An Average Sadness」。
この作品を書いた女性のように、夜中、一人きりの部屋の中、
ベッドでこれを読みながら、
大仰ではない、素朴だけれど確かな手応えのあるこの人との「つながり」、
この人に対する「共感」
もっと言えば確かに「愛情」を覚えた。
これを書いたときの彼女がどのように一人、
部屋の中でこの生の声を文章に綴っていったのかに思いを馳せながら、
「私も久しぶりにラジオを聴こうかな」という気になり、本を置いた。
珠玉の短編集として
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ポール・オースター自身が書いたものではないということで、はじめはあまり興味がなかったが、柴田元幸氏らの日本語版を手にしてみて、その思いこみが間違っていたことに気づいた。本書には、もしかしたらオースター自身が書いていたかもしれないような不思議な話がたくさん収められている。それらの多くはオースター自身が取り憑かれたかのように繰り返し自分の作品の中で扱っている「偶然性」という主題に基づいている。
As one early contributor so eloquently put it, "I am left without an adequate definition of reality." If you aren't certain about things, if your mind is still open enough to question what you are seeing, you tend to look at the world with great care, and out of that watchfulness comes the possi8bility of seeing something that no one else has seen before. You have to be willing to admit that you don't have all the answers. If you think you do, you will never have anything important to say.
Incredible plots, unlikely turns, events that refuse to obey the laws of common sense. More often than not, our lives resemble the stuff of eighteenth-century novels.
このオースター自身による序文には、現実はフィクション以上に虚構的であるという真理が表明されている。そして、それは「現実はフィクション以上に虚構的であるがゆえに現実なのだ」ということでもある。
Life is full of miracles
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人はそれぞれの生活の中で、さまざまなことを体験していく。どれもがかけがえのないその人だけの経験だ。ときには至福の喜びであったり、耐え難い喪失であったり、信じられないほどの奇跡であったり。
この本にはそうしたそれぞれの人生に記憶されているできごとが本人のことばで語られている。
アメリカの現代作家、ポール・オースターが、ラジオ局の企画に応えて、全米に、忘れられない体験(虚構のように思える実話)を募集し、それをラジオで朗読することになった。この本はそのとき集まった5000件にも及ぶ応募原稿の中からポール・オースターが選んだ179編が収められている。
「世の中は私たちが知れば知るほどいっそう捕らえがたく複雑なものになっていく」と彼は序文の中で述べている。
この本の中の一篇々々が、無名の人たちの人生の不思議や感動に対する思いにあふれていて、ともに嘆いたり、笑い出したり、驚いたり・・・。 人々の暮らしの中にアメリカの風土や歴史などが読みとれることも興味深い。
因みに、この本はイギリス出版であるが、最初のアメリカ版のタイトルは、'I Thought My Father Was God, and Other True Tales from NPR's National Story Project'
現代小説の旗手による小説のような本当の話
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NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)でポール・オースターがパーソナリティーを勤める番組は、一般の人からノンフィクションストーリーを募集し、オースター自らセレクトしたものを朗読するというものらしい。本書はそこに寄せられた数多くのストーリーのなかからオースター自信が180あまりを選り、編んだもの。戦争、愛、動物、家族など10のテーマ別に編集してある。心温まるストーリーから笑ってしまうもの、切ないもの、なるほど、オースターがいかにも選びそうな内容の不思議な話も印象的だ。人種、性別、年齢、職業など投稿者のバックグラウンドは当然さまざまだが、それがまたいかにもアメリカのにおいを放っている。一般の人々の文章の構成力も侮れないものが数多くあるのも興味深い。オースターはもっとも人気の高い現代小説家だが、「人生にはまるで小説のような出来事があるんだ」ということを私たちに教えてくれている。