さて順序が逆になりましたが、本書の前半は「こんな不思議なことが起こるなんて神の御業(みわざ)に違いないって騒いでいる皆さん、実は単なる“偶然”でしかないんですよ」という解説論考です。こうした不思議な現象を「シンクロニシティ」とシャレた言葉で呼んでせっかく楽しんでいる多くの人々の出鼻をくじくのが主たる目的といえます。
ケネディとリンカーンの数知れぬ「一致点」の背後に、数知れぬ「不一致点」があり、人は都合よく一致点にのみ目を向けているにすぎないとあります。探してみると、例えばケネディとメキシコ大統領の間に16の一致点を見つけることも可能だとか。
また偶然の一致であっても、それが他の誰でもない自分に起こったりすると人は「宇宙が自分を選んでくれた」(122頁)と思うものだと論じています。平凡な毎日で、神のごとき存在が密かに自分を見守ってくれている、と感じられることのなんと素晴らしきことか。自分の人生がとても特別なものに感じられるはずです。
だから奇妙な一致に人々が魅力を感じるのもムリはありません。大切なのは奇妙な一致を楽しみながらも、そこに人生を預けたりしない健全な精神を持つことなのだろうな、という思いを強くした一冊です。
ただし他のスケプティック系の本全般と同様、事例よりは著者による解説の方がはるかにおもしろいので、後半の事例集はそれなりに興味深いものがあるとはいえ、ややだれる感じってところにはご注意を。
もう少し偶然の確率やら、偶然に神の手を感じちゃったりする人間の認知メカニズムの深堀があるとよかったかも。