……というと何やら小難しそうだが、次々と降りかかる試練に、僧侶としてのストイックな姿勢で立ち向かっていく様は、時にユーモラスですらある。実際、発表当時は大ボラ吹き扱いされたほど、波瀾万丈の面白さ。異文化に対して物わかりがよすぎる昨今の旅行記とは違い、不快なものは不快とハッキリ書く率直さも痛快だ。
慧海の『チベット旅行記』は、講談社学術文庫の5巻本をはじめ、これまで何種類かの形で刊行されてきた。本書はそれを、とっつきやすい形で1冊にまとめた抄本だ。抄本ながら、慧海節のツボを存分に堪能できると思う。
なお、慧海のチベット行をめぐる時代背景、そして同時代にチベットを目指した日本人たちについて、さらに興味をもたれた方には『チベットと日本の百年 十人は、なぜチベットをめざしたか』(新宿書房)もお勧めだ。