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チェーホフの戦争

価格: ¥1,728
カテゴリ: 単行本
ブランド: 青土社
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チェーホフ戯曲、読みの楽しみ ★★★★★
 『桜の園』のロパーヒンと、『ワーニャ伯父さん』のワーニャ。二人の違いは? 著者はこう書く。

(前略)現れては消え、かと思えばまた出現するというロパーヒンの速度に筆が追いつかなかったとも考えられ、そこにロパーヒンの「からだ」の自在さ、身の軽さ、速度を読むことができる。そうしたロパーヒンに比してワーニャはあからさまに対照的に描かれており、だからこそ、意図的な「四十七歳の身体性」が戯曲に書かれているのを感じる。

 著者には、登場人物の年齢にこだわりすぎている観がある。それというのも、それなりに意味があるわけだが、それはここでは書かない。本書を手に取って確認していただくことにして、私は別の視点を提案したい。
 ロパーヒンの〈「からだ」の自在さ、身の軽さ、速度〉は、彼の〈からだ〉の若さよりも、私に彼の〈からだ〉の稀薄さを感じさせる。彼の生の稀薄さを感じさせる。彼ははたして、生身の人間だったろうか? 神出鬼没、という言葉もある。劇の登場人物たちの運命を決定づける、英雄的な役割を演ずる、と同時に、彼もまた、喜劇的人物になり下がる。英雄から喜劇的人物への転落。この転落が、彼に〈からだ〉を与えたかもしれない(もっとも、彼にその自覚はないだろうが)。〈バブル〉に踊らされた人たちが、それが弾けたとき、痛みを手に入れたように。

 そのほか、『三人姉妹』が〈戦争の劇〉であること、ナターシャが〈戦争〉を象徴するものとしてあること、繰り返される遠景と近景のモティーフ、遠景(あるいは、未来)で起こっている不気味な火事(あるいは、戦争)の描写、など、著者によるチェーホフ戯曲の紹介・読み解きは刺激に満ちている。

 詳しくは、本書を手にとって、お確かめください。
 
チェーホフの魅力を現代的に解釈 ★★★★★
雑誌「ユリイカ」に連載していた「チェーホフを読む」の単行本化。連載中は何回か立ち読みしたこともあって、個人的にも熱望してた単行本化の実現でした。
ここで取り上げている戯曲は「桜の園」「かもめ」「ワーニャ伯父さん」「三人姉妹」の四作品ですが、現代社会とのアナロジーでそれぞれの戯曲の面白さを分析しています。かなり仔細な部分への偏執的なまでの読み込み作業を行っていますが、どれも独特の視線によるものですので、最後まで楽しめると思います。ただ、あくまでも芝居の原作というだけでなく戯曲単独としての楽しみ方も満喫できます。