「世界ミイラ学会(the World Congress on Mummy Studies)」以上に風変わりな科学系学会は、恐らくないだろう。全世界からミイラ専門家が集まって最新の研究成果を発表しあう。彼らミイラ科学者たちとはいったいどういう面々なのだろう、また彼らを気味の悪い、しかし魅惑的なこの分野に向かわせたものは何だろう?
『The Mummy Congress』はミイラの世界を研究した初めての本というだけではなく、ミイラのとりこになった人々を描いた書でもある。本書を読めば、7000年間5大陸の、時空を超えた周遊が満喫できる。ミイラが聖者として崇拝されたこと、政治家によってその是非が論じられたこと、美術品として収集されたこと、古代の感染病の治療法を分析する糸口になったこと、粉末には薬効があると信じられたこと、薬品利用についてのヒントになったこと、さらに現代の化粧品や美容関連産業がそれに倣おうとしていること、などが語られる。
チリ北部の実に完璧に作られた子どものミイラ、古代エジプトに残る「ペット」のミイラ、19世紀日本の、生きながら自らミイラとなった修行僧から、現代、なんとインターネット上で喧伝される「ミイラ製造サービス」のあれこれにいたるまで、その内容にはとにかく度肝を抜かれる。しかし著者は、ミイラやミイラ研究者を浮き彫りにすることで、先人の暮らし、死への恐怖、永遠の命への夢、そして未来を生きる世代の可能性など、より普遍的なテーマを広く深く読み解くことにも成功している。
著者ヘザー・プリングルはディスカバリー誌にたびたび寄稿し、またサイエンス誌、スターン誌、「Geo」誌、ナショナル・ジオグラフィック・トラベラー誌、「Islands」誌、テキサス・マンスリー誌などに多くの記事を書いている。