「Quirk et al.(1985)」と聞けばその分野の人はすぐにピンときますが、その前身となる文法書も含めて、この本は現在、
英語学の諸分野の文献で、必ずといって良いほど参考文献に挙げられている文法書です。
現在容易に入手可能な英文法書としては、随一のものであるといっても過言ではありません。
無論、これを参考にしている英語学者たちもこの本に盲目的に追従している訳ではなく、これにも様々な「穴」があることを
充分承知の上で、様々なかたちでこれを「利用」しているのです。場合によってはその記述を否定することさえあるでしょう。
しかし、他にも大規模な文法書が数々編まれ、さらに出版から20年以上経った現在でさえ、この本が未だに用いられているということは、
それだけその記述の相対的正確さ、詳細さに信頼が置かれているということです。
電子コーパスが今ほどに発達していない時代に編纂されたことを考えると、その凄さはなおのことではないでしょうか。
この文法書の古いことによる欠点ばかりあげつらう人もいますが、これを十分に使いこなす実力のある人だけが、
ごく最近出版された『Longman Grammar...』や『Cambridge Grammar...』などを使いこなせるのではないだろうかと思います。
だが、20年経った今でも内容に関しての再考が試みられていない、すなわち改訂がなされていないというところには、
編著者及びその弟子たちの無反省な“lazy contentment”を窺うことができるのではないか。
現在、Huddlestonらによる“The Cambridge Grammar of the English Language”(2002)なども登場し、
包括概観的な文法書は飽和状態に達しているともいえる。
そこで今こそ、ある特定の文法理論や場面設定に立脚した、いわば各論的な英文法書が求められているのではないか。
現にドイツ語、ロシア語などにおいては、
文法学者たちによる積極的な分野別文法書が数多く編まれているように思われるのである。
地球規模化に伴い英語の重要性、多様性がますます叫ばれる現代、
世界の英文法学者たちも、他言語の文法研究の勢いに追随せねばならないのだ!