本書で語られる実行は、経営トップによるコーチングの連鎖を端緒として実行と業績へのコミットをカスケード式に求めていこうという考え方。トップが実行へのコミットを示しコーチングを施し、更にその実行へのコミットとコーチングの連鎖が下へ下へと伝播していく。「口をすっぱくして言っているのにやらない」というひきこもり症の経営者とは異なり、相当のコミットがなくては実行できないことは間違いない。
また、コーチングの過程では、トップ自らが工場や販売の現場へも降りていく。「現場との意見交換」とは名ばかりの物見遊山ではない。実際に、現場のコミットを引き出し、その場で意思決定することもある(この当りは、『GE式ワークアウト』(日経BP社)に詳しい)。また、こうした降り立つ過程で、次代のマネージャー層を発掘し鍛え上げ、リーダーシップ・パイプラインを築いていくのだ(パイプラインの考え方は『リーダーを育てる会社つぶす会社』(英治出版)に詳しい)。
また、本書で示される「7つの原則」は、実行を文化として根付かせるための経営者としてのスタンスが整理されている。
ラリー・ボシディと言えば、「社員の雇用を保障するのは、会社ではなく市場と顧客だ」という名言を垂れた御仁、座右の一言。
カルチャーが変わらないと実行が変わらないのか、実行していく過程でカルチャーが変わるのか。チャンドラーが示した戦略が先か組織が先かという命題と同様に、このチキン=エッグの関係の正否はなかなか解き難いものがある。ただ、間違いなく言えるのは、サメが泳がなければ死んでしまうのと同様、企業が戦略や施策を実行しなければ否応なく死んでしまうことだ。正しい戦略も重要だが、実行の文化もまた重要なのだ。