《芸術探偵》シリーズの第三長編
★★★★★
神泉寺瞬一郎がヨーロッパを放浪していた頃、フランスのランスで遭遇した事件。
瞬一郎はその事件の顛末を「花窗玻璃」と題した手記にまとめており、彼の
放浪時代のことを知りたい伯父の海埜警部補が、その手記を読むことになる
(手記では、片仮名が全く使われておらず、漢字総ルビで統一されている)。
事件の舞台となるのはランス大聖堂。そこの南塔屋上から男が転落死した。
現場は密室状況であったため、警察は自殺と断定。しかしその半年後、大聖堂
で、浮浪者が原因不明の死を遂げた。二人の共通点は死の直前に、小礼拝堂
のシャガールの花窗玻璃(ステンドグラス)を見ていたことだというのだが……。
二つの事件両方ともに、なかなかユニークな物理トリックが用いられています。
それぞれのトリックには周到な伏線が張られ、その上、仕掛けた人物の属性
を反映しているのが秀逸です。
さらに、作中作という形式が導入されている本作では、そうした個々
の事件の解明だけでなく、メタレベルの謎解きも仕掛けられています。
瞬一郎が手記で特異な文体・表記を用いた理由については一応の説明がなされるのです
が、それ自体が読者に対する目くらましとなり、作者の狙いを、巧妙に隠蔽しているのです。
副題の「シャガールの黙示」が含意する真相の構図は、実にエレガント。
現代本格の傑作のひとつ
★★★★★
この文体で本格ミステリを書き上げた作者の力量にまず感服する。さらにトリックの裏に隠された人間ドラマに感激する。衒学にみちた文章と、あっと驚く物理トリックを繋げる文章力が素晴らしい。この作品はこの表記があってこそ生きていると言えるだろう。伏線の張り方も申し分なく、真相が判明した時には深く頷くしかない。さらに副題の『シャガールの黙示』 ――そこに込められた意味に気付いたとき、もう一度驚きが待っている。
今後に期待。
★★★☆☆
このシリーズ3冊全部読みました。しかし、設定も題材も豪華なのに、なぜか足りないゴージャス感。主人公はじめ登場人物が軽いせいかな?2時間ドラマのような安っぽさが残念です。いつか大化けしてくれると信じてます。