ドイツ語学習者には素晴らしい教材!
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『Culture and Value』というのはいささか大仰なタイトルですね。原題の『Vermischte Bemerkungen』の方が良かったのではなかろうかという内容です。別にウィトゲンシュタインが「文化と価値」についてまとまった考察を述べているという訳ではありません。大量の遺稿から「それ系統」の雑記を遺稿管理人のお弟子さんが選択編集したもので、彼レベルの哲学者にはありきたり過ぎるのでは、という考察も結構見られます(現代の学校教育は「苦しみ」を評価しない、とか)。しかし「物の言い方」が魅力的なのは確かですし、本格的にウィトゲンシュタインを読む気はないが本人の書いた物にちょっと接したいという方には丁度良いと思います。頻繁に引用される名文句もたくさん登場します。「原爆」についての考察は一度も引用対象にはなっていないと思いますが、一読に値するインパクトです(原水爆反対運動をしているインテリがみんな俗物のクズだということを鑑みれば、原水爆の発明になんらかの意義があると言えないだろうか云々、と)。
加えて、原文ドイツ語と英語翻訳併記というのは素晴らしい。私の地を這うドイツ語力では評価しようもありませんが、ウィトゲンシュタインのドイツ語は名文だと言われています。一度馴染んだら一生忘れないリズムのドイツ語だと。ウィトゲンシュタインは多分「音読出来るドイツ語」を意識して書いていると思います。大学時代ドイツ語を専攻し、昨今の中学英語教科書レベル(New Horizonとかね)の知的刺激ゼロの教科書を使わせられた身には「ああ、こういうドイツ語で勉強しかたかった!」と悔しい思いがしました(もう遅い)。ドイツ語を学ぶ学生さんがこれを読んで下さっていたら、是非是非お薦め。
ウィトゲンシュタインを気楽に楽しむならこれ!
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ドイツ語の原題は"Vermischte Bemerkungen"で直訳すると「雑事記」とでもいう意味です。邦訳は「反哲学的断章」なんて、読んでいるこっちが恥ずかしくなるような、大げさな題名で出ています。まだ英(独対)訳の本書の"Culture and Value"の方がましです。
内容はウィトゲンシュタインの日記から、芸術・音楽・政治等についてのコメントをアフォリズム集としてまとめたものです。なんだか人の日記を盗み見ているような気がしてしまいます。
哲学的にどんな価値があるのか疑問ですが、面白い読み物です。ウィトゲンシュタインの議論よりもその口調が好きな人にはピッタリです。対訳だったら、ドイツ語の勉強もできますし。
私はこれを読んでいてニーチェの"Der Wille zur Macht"(権力への意志)を思い出してしまいました。ものの言い方が似ています。